有明バッティングセンター【前編】
「ところで、健太、このマシンの電源の入れ方を教えてくれないかな。古い方は
俺も知っているんだけど、新しいのは使ったことがないのでね。」
電源と操作パネルはマシン側ではなく、バッター側に設置されており、直接操作
しながら打撃練習できるように工夫されていた。
電源を入れると、「ガガガガ、ウイーン」という音を出してタイヤが回転を始め、
「キュイーン」と徐々に音階を上げながら高速回転を始めた。
バッターボックスに立ち、速度を時速150kmに設定し、ストレートを選択。
投球口の上に5秒前の電光掲示板がカウントダウンをはじめ、カウントがゼロに
なるとほぼ同時に「ズドーン」と硬式球の重い音がホームベース後ろの衝撃吸収
用マットに響いた。
なるほど、投球タイミングをカウントダウンしているのか。
「すんげー! 本格的ジャン。」
よし、今度は本気でこの球を打ってみよう。センターの主が打てないんじゃ
しょうがないからなぁ。
小さい時、お祭りの縁日の金魚すくいで1匹も取れず、ふてくされていると、
金魚すくい屋のおやじが、「こうやるんだよ」とすごい速さですいすいと何匹も
金魚をすくって見せたのを思い出していた。
それを見て俺もやる気を出し、小遣いをほとんど巻き上げられて、うなだれて
帰ったっけ・・・・
ふと、操作盤のボタンに目をやると、「デ」とかかれたボタンを見つけた。
「何だ?」と思わず押してみる。
「あぶない!!!」。健太と浩二が同時に叫ぶ声が聞こえたような気がしたが、
その後のことは覚えていない。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky