moonlight(後編)
「い、いやあ……そ……それは……」
巧は後ろ頭に手を当て、顔を赤らめる。
「そうなの!?」
ネオはクイッ! と急に巧の方へと振り向く。
「ター坊、モッテモテじゃないのよー」
やるねぇ! と未知流は巧の背中をバシバシ叩く。
うげっ! と巧は呻いた。
「そーなんスよ! オレは巧よりも先に教室に帰ってたんスけど、しばらくすると廊下から女子たちの声がうるさくて、なんだと思ったら、コイツがサインを書いていやがったんですよ~!」
ふてくされた表情で巧に指を差す。
「そ、そーいうー絢都だって、サインを書いてたじゃないか!」
「違う! オレはサインを書くぞーとアピールしても、『ナル男には興味はないっ!』『兄織田はどっか行けっ!』って断られたんだよ! おまえだけいい思いしやがって」
立ち上がり、こんのー! と巧の首を絢都は絞める。
「ぐええええ――っ!」
蛇のような腕を前に、巧は喚く。よっぽど悔しかったのだろう。せっかくチャンスをもらったのにこのザマなのだから。
「……ったく。なんでこうなるんだよ……」
巧から離れ、絢都は俯いて両手で頭を抱えた。
「まあ、ナル男はナル男だからねぇー」
ぐふふ、と悪戯っぽい笑みで絢都を見つめる。
「そうッスよ! だいたい、あんときネオ先輩がナル男って言うから、こうなったんじゃないっスか――!!」
ネオに向かって指を差す絢都。
「いやいや、あんたがアニソンを歌うからでしょ!」
ネオは立ち上がって絢都を責める。
「アニソンのせいじゃないっス! どう見ても先輩のせいっス! この殺人鬼ヘアーが!」
絢都はネオに近づいて反撃する。
「なんだとー! わたしのトレードマークにケチをつけるな! このナルシスト!」
「ナルシストはそっちだろーっ! ワガママリーダー!」
「ワガママなのはそっちも同じでしょー!」
う――――――っ! 飲み干したペットボトルをギュッ! と握りしめ、バチバチと火花を散らすネオと絢都。
作品名:moonlight(後編) 作家名:永山あゆむ