moonlight(後編)
「ハヤトっていっつもこれだよね~」
アカネはペットボトルのラベルを見つめる。
「しょうがねぇだろ。好きなんだから」
ゴク、ゴク、とノド鳴らして飲む。
アカネもハヤトに続く。
「ぷっはぁーっ! ……ねぇ、ホントに来ると思う」
アカネはハヤトに訊ねる。
「さあな。麻倉さんが言うんなら、来るんじゃないか」
「何よ、その根拠」
「それを信じているから、待っているんだろ?」
「そ、そうだけど」
ネオからライブ前に、「学校に来なくなった親友を、わたしのクラスメイトの竹下さんを呼んだから、来たらソッコーで連れてきてください。お願いします!」って頼まれたときの、彼女の強い目を思い出す。「やるべきことはやっていますから!」と言われているみたいだったから、頼みはしたが。
アカネは腕時計を見つめる。時刻は、タイムシフトが終わる時間に差し掛かっていた。
「うーん。残念だけど、もう時間だわ。次のプログラムもあることだし、サインを送らないと……」
moment'sに報告するために、ブレザーを着て腰を上げたそのとき、
「あっ!」
ハヤトが急に立ち上がって指を差す。
「誰かがこっちに向かってる!」
彼が指を差す方向から、こちらに走ってくる女子生徒を確認する。
「まさか……」
アカネは上履きのまま、彼女の下へと走っていった。
……。
顔を俯いたまま、ネオは舞台の中心で彼女の出番を待ち続けている。
静かになった彼女たちに、観客も静まり返る。
その空気の中で、時間を稼ぐ。「早くやれよ――――っ!!」という男子学生の大声が響く。
それでも、待つ。
待ち続ける。
作品名:moonlight(後編) 作家名:永山あゆむ