moonlight(後編)
ネオが持っているマイクをぶんどり、ボーカルの位置へと立つ。逆にネオは、奥にあるドラムの席へと座る。
絢都はマイクを叩き、調子を伺う。
すると、一年生と思われる男子学生から、
「ナル男――――っ!!」
「うるせぇ!」
とマイク越しでツッコむ。
そして、観客に向かって指を差し、
「い、いいかぁ~お前ら! リーダーからナル男とバカにされたが、そうはいかねぇ! 念願かなったオレ様の魅惑のヴォイスで、甘い楽園へと誘ってやるぜえぇぇぇぇ!!!!ウワ――――――オ!!!!」
と全力でシャウトする。
観客も大声でそれに応える。
「リーダーに説得に説得しまくって掴んだ、俺が愛してやまないアニメソングとその良さを、moment'sロックで表現してやるぜ――――――っ!!!! いくぞぉ! みんなも知っている今話題のアニメ、『世紀末美少女ポパイちゃん』のオープニングより、『恋に恋してノックアウト』オォォォォォオオ!!!!」
ネオの小さなシンバル音から、曲がスタートする。
よく知っているなぁ……と、盛り上がっている八割の学生たちに無言のツッコミを入れ、アニメの知識がこれっぽっちもないネオは、ドラムを練習通りに黙々と叩く。
センターにいる絢都は、「これがやりたかったんだよ!」と言わんばかりのハイテンションでアニソンを歌う。
――そもそも彼がこうなったのは、今から二週間前。
「だーかーらー! アニメソングには、J―POPとは違う魅力があるんスよ!」
「魅力、ねぇ……」
絢都の必死の説得に、ネオはうーん、と呻くように考え込む。
彼は夏休みのフェスに向けて、「モテたい!」という野望の下、自ら歌声を披露して、ネオにチャンスをもらった。
それにより、ネオが作詞で未知流が作曲した、彼の歌声にあったハードロックなオリジナル曲『BURNING!!』を総合祭でも歌ってもらおうと思ったのだが、
「アニソンには、それしかないパワーが宿っているんですよ! ハイテンションにさせたり、J―POPにはない独特な曲調! そして、負けず劣らず、アニメから引き出された、現代に問うダイレクトなメッセージ性! 水木兄貴曰く、『アニソンには勇気や夢や希望や正義など、人間が忘れてはいけないものがたくさん揃ってる』んですよ!」
作品名:moonlight(後編) 作家名:永山あゆむ