moonlight(後編)
彼は頭に、部活でも使う白のバンダナを巻き、両手には黒の指ぬきグローブ、ズボンは青のデニムと、いかにもカッコつけた着こなしをしていた。さすが、ナル男と言われるだけのことはある。
一方、
「緊張しますね……」
と巧。緊張のあまり、手が震えている。
彼は昨日言われたように、いつものクールで暗い雰囲気から脱却――いや、「自分を変えたいんなら、まずは服装からよ!」と夏休みのフェス前にネオから指摘され、未知流と一緒に自腹(バイトで貯めたお金)で買った、ビジュアル系バンドが履いてそうな、巧の細い脚を美しく目立たせるスキニーチノ、腰のベルトはギラギラと銀色に輝いている。そして、他のメンバーのような緑色の体育館シューズではなく、長身を活かした(?)、黒のブーツを履いている。本来はいけないが、今日は緑のシートが講堂中に敷かれているので問題ない。そして顔が整ったこのイケメン顔。いかにも某男性アイドル事務所でデビューできそうなテイストだ。
その服装に似合わない、ガチガチの強張った顔をしている巧に、ニヤけながら左肘で脇腹をつつき、
「とか言って、ロックフェスのときは、相棒のベースを楽しそうに引いていたクセに~」
「今日もアレくらいやっちゃてよ~!」
とネオと未知流に茶化される。
あのライブで巧は、自ら観客に近づき、愛用のエレキベースであるトランスブルーの『PLAYTECH(プレイテック)EBF-305(株式会社サウンドハウス製)』で自慢の音を披露し、普段は恥ずかしがっているくせに大声をあげ、終始テンションが高かったのだ。
そして終わった直後には、巧に興味を示した女の子たちがサインを求め、テンションスイッチをOFFにした彼は、大変な目にあってしまったのである。
フェスから約二か月が経過するも、未だに頭に残る忘れられない出来事だ。
「い、いや、あのですね……アレは、体が勝手に……というかネオさんたちとやっているからで……」
「嘘つけ! おまえ、お客さんと一緒にものすごく楽しんでいたじゃないか! 出しゃばって俺よりも人気者になりやがって! ……いいか! 今日はおまえよりも俺が一流ってところを見せてやる!」
「ええっ!?」
隣でムッとした表情で睨み付け、目から火花を散らす絢都に、巧は動揺する。
その一幕をネオと未知流は笑った。
「……さてと、笑うのはここまでにして、あの子はまだ……ここには来てなかったよね?」
未知流が真剣な目で絢都と巧に確認する。
作品名:moonlight(後編) 作家名:永山あゆむ