漢字一文字の旅 二巻 第一章より
十一の三 【絶】
【絶】という漢字、織機の糸を切断する形だとか。
そこから「たつ」、「たえる」の意味になったそうな。
また元の色糸の意味もあり、それははなはだ優れていて、そのはなはだの意味を込め「絶妙」という熟語が生まれた。
そんな【絶】だが、「絶望」、「断絶」、「絶命」と悲観的な熟語を多く作る。
そして「絶食」などと、食いしん坊にとっては話題にもしたくないが、四年以上も「絶食」し、頑張ってるヤツがいる。
それは鳥羽水族館に棲むダイオウグソクムシという深海生物。
その姿は、言ってみればダンゴ虫の海底版。
掃除屋と呼ばれている。
そんな絶食ヤローに係員が美味いアジを与えても、知らんぷり。こうして四年の歳月が流れてしまったそうな。
こいつ、何が楽しみかは知らないが、とにかく食べることに興味がないのだ。
さそかしダイエットでスリムだろうと想像するが、ダンゴ虫のように鎧を着ており、誰もそのナイスボディを確認していない。
とにかく【絶】という漢字、「絶食」などと厳しい字だが、これを実行してしまうヤツがいるのだから……。
いずれにしてもダイオウグソクムシを精一杯応援し、【絶】賛してやりたい。
作品名:漢字一文字の旅 二巻 第一章より 作家名:鮎風 遊