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漢字一文字の旅  二巻  第一章より

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九の四  【努】



【努】、分解すれば、「女」の「又」に「力」。
おまえ何やってんだ! と問い詰めたくなるが、これは分解のし過ぎだ。

まず上部の「奴」、この「又」(ゆう)は手の形であり、「女」を手で捕らえた形だそうな。
ここから「めしつかい、やっこ、しもべ」の意味になったとか。
そして下部の「力」は鋤(すき)の形であり、農耕に勤め励むこと。

したがって【努】は、しもべが農耕に勤め励む意味。
さらに発展し、人がつとめる、人がはげむ意味になったようだ。

しかし、こんな【努】、意外に(ゆめ)とも読む。

万葉集に、笠女郎(かさのいらつめ)が大伴家持に贈った二十四首の歌がある。
その中の一つが次ぎ。

荒玉(あらたま)の 年の経(へ)ぬれば 今しはと 努(ゆめ)よ我が背子 我が名告(の)らすな

意味は
年が経ったからといって、今はもう良いと思い、貴方、ゆめゆめ私の名を、人にはおっしゃらないでください。

かって恋人同士だった。そして再会。
女は人目を気にし、自分の名前を口にするなと男に念を押す。
よくある話しで、一千年前も今も一緒。
そんなことを訴えた歌、【努】(ゆめ)よ我が背子とある。

この【努】(ゆめ)はあとに禁止を表す語を伴って使われ、決して/必ずの意味。
【努々】(ゆめゆめ)と繰り返して使われたりして、例として「ゆめゆめ油断するな」などがある。

【努】という漢字、「女」の「又」に「力」なんて、【努々】(ゆめゆめ)思うなということなのだ。