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漢字一文字の旅  二巻  第一章より

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十六の三  【神】



【神】、右部の「申」は稲妻の形だとか。
それは天にある神の威光であり、そこから神の意味になったそうな。
【神】という字の字源、意外と単純ないきさつだったようだ。

そして……
日本は自然のものがすべて神、八百万(やおよろず)の神の国。
山に森に川、そして滝にほこら……などなど、すべてが神。
そして最近ではトイレの神さま、信号機を上手に操る信号の神さままでおられる。日常の生活で、神さまたちに随分とお世話になっている。

そんな神さまたちだが、時々いたずらをされる。
それは神隠し。

荻野千尋(おぎの ちひろ)は10歳の少女。
夏のある日、両親と引越し先の町に向かう途中、奇妙なトンネルを見つける。
そこを歩いて抜けると、そこに草原が広がっていた。

こんな忘れられないシーンから始まる宮崎駿のアニメ、「千と千尋の神隠し」
そこには不思議な世界があった。

さらに時代を遡ってみよう。
遠野に纏わる民話を編集した『遠野物語』(とおのものがたり)がある。
柳田國男は天狗、河童、座敷童子の他に、神隠しについて綴った。

その中の一つに、こんな話しの紹介がある。

遠野の裏町に、こうあん様という医者があって、美しい一人の娘を持っていた。
その娘はある日の夕方、家の軒に出て表通りを眺めていたが、そのまま神隠しになってついに行方が知れなかった。

それから数年の後のことである。この家の勝手の流し前から、一尾の鮭が跳ね込んだことがあった。
家ではこの魚を神隠しの娘の化身であろうといって、それ以来いっさい鮭は食わぬことにしている。
今から70年ばかり前の出来事であった。

短文ではあるが、どことなく郷愁を覚えるから不思議だ。

このように【神】に纏わる物語は、天にある神の威光のせいか、いつも神々しいのだ。