漢字一文字の旅 二巻 第一章より
十六の四 【鰻】
【鰻】は、ウナギ。
右部の「曼」という字は、頭に深く被る頭巾に手を掛けて引き、目があらわれる形。そこから婦人の目が長く、美しいことを意味することとか。
この優雅な「曼」に「魚」が組み合わさって、【鰻】(うなぎ)。
川底の穴からにょろと出てきたウナギ、流し目で美しいということか。
そういえば、蒲焼き前のウナギの目、どことはなしに憂いがある……ように見えるが。
そんなウナギ、日本で年11万トンが消費されている。
しかし、太平洋のマリアナ海溝生まれのニホンウナギの稚魚・シラスウナギ、その漁獲量が激減している。
それにより鰻丼も鰻重も高騰の一途。いや、ウナギ登りだ。
早く完全養殖できないかと願うばかり、そんな昨今だ。
しかし、待てない。
そこで最近注目されているのが、ナマズの蒲焼き。
かっての江戸時代、ウナギもナマズも夏場の大事な栄養源、いずれもよく食べられていた。
しかし、ある店で、ウナギが売れず、店主が蘭学者の平賀源内に相談した。
当時言われてた。土用の丑の日に「う」の字がつく物、例えば梅干しや瓜を食べると夏負けしないと。
そこで源内は店主に「土用の丑の日は鰻」と張り紙させた。これで店は大繁盛となり、そのキャッチフレーズが現代にまでも影響を与えている。
されども鰻丼高騰の折、この習慣をひっくり返そうと、ナマズの蒲焼きキャンペーンが始まった。
で、お味の方はどうかということだが、鯰丼、まったく鰻丼と見極めがつかないほど美味しいとのこと。
どんなものかナマズの蒲焼き、一度食したいものだ。
「鯰」は英語で「catfish」、いわゆる「猫魚」。
そして【鰻】という漢字、婦人の目が長く、美しいという意味。
一体どちらが美味かな?
作品名:漢字一文字の旅 二巻 第一章より 作家名:鮎風 遊