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アイラブ桐生 51~53

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 「京の友禅染から、金箔師はんに弟子入りをして
 免許皆伝をもらう前に、もう、今度は天ぷら屋はんどすか。
 ほんにいそがしいこてぇ、どすなぁ~」


 久し振りに顔を見せたとたん、
いきなり春玉からの痛烈な皮肉がやってきました。
今日は洋服姿で、17歳の素顔を見せている春玉です。


 4月は「都をどり」の本番が続きます。
1日から30日まで、一日4公演が連日のようにつづきます。
出だしの舞妓はひっぱりだこで、実質25日間を、
フル稼働のまま乗り切ります。
朝は10時までに楽屋入りをして、4回の公演を済ませてから
急いで着替えをすませます。

 ひと息入れる暇もなく、今度は祇園のお座敷を駆け回ります。
12時から1時頃まで働いて、朝の6時ころにはもう起き出して、
髪結いさんへ向かいます。
技量も要りますがこの時期には、
とにかく体力が一番物をいうようです。



 無事に「都をどり」をつとめあげた春玉が、
4日間のお休みをもらいました。
休みの初日に久し振りにと、お千代さんを訪ねたそうです。
少しの時間をお千代さんと雑談をして過ごしてから、
わざわざ順平さんのお店まで、『おおきにお世話になりました』と、
大きな差し入れを携えて訪ねてきました。

 日本髪を解いた春玉は、
久し振りに明るい色の洋服などを着ています。
気のせいか(ご無沙汰続きで見慣れていないためか)
すこしやつれたようにも見えました。


 「そんなことはいっこうにおへん。
 とにかく食べとおしです。
 楽屋は支給のお弁当やら、御贔屓さんからの差し入れやらで、
 とにかく物が溢れています。
 大きいおねえさんからの振る舞いなども届いて、
 とにかく食べ物だらけどす。
 猫にかつぶし。かっぱにきゅうりみたいなもんでどして、
 なんぼをどりで体力を使うたかて
 をどりが終わるころにはしっかり身についております。
 痩せるどころか、『をどり肥り』ちゅうとこどす。
 着物を着ていると、どなたもお気づきになりませんが、
 実は此処だけの話、
 わたし、脱いだらすごいんどす。うっふふ・・・・」


 「そら大変だ。春ちゃんも早めに足を洗わんと、
 むくむくと肥りぬくで・・」

 カウンターを挟んで、順平さんと春玉が談笑をしています。
仕込みのほうも一段落をして、そろそろ提灯に
灯を入れる時間になりました。




 「おい群馬。今日はもうええ。
 せっかく春ちゃんが、『都をどり』のご褒美でもらった、
 4日間のお休みだ。
 舞妓がゆっくりできるのは、『をどり』のあとか、
 お正月休みくらいと相場が決まっている。
 せっかく、迎えに来てきてくれたようだ。
 もう、春ちゃんと二人でお帰りぃ。
 二人でゆっくりとしたらええ。
 季節がら、加茂川の散策でもいっといで。」


 加茂川はまずいでしょう。
祇園のおねえさんたちとまた、ばったりと行き会ったりしたら、
後がまずいから、危なすぎて歩けません、と答えると・・・・



 「若いもんが、遠慮をすることなどありません。
 春ちゃんは、すっかり髪を下ろしているし、
 見なれていない洋服姿だ。
 紅も、白粉もつけていない今の姿は、
 誰が見ても、どこにでもいる17歳そのものです。
 その辺を歩いている高校生と、まったく似たようなもんだ。
 気にしないで、手でも足でも組んで、
 加茂川の土手あたりを歩いたらええ。
 ん・・・・足を組んだら、
 まともには歩けねえか・・・・」


 あはは、と笑う声に送られて、
暗くなり始めた路地を歩き出しました。

作品名:アイラブ桐生 51~53 作家名:落合順平