アイラブ桐生 51~53
「おう順平、頼みが有るんだ。
何も言わずにきいてくれ」
「珍しいね。で、なんだい?」
「こいつに、京のてんぷらの真髄ってやつを
教えてやってくれないないか」
藪から棒の提案です。
そう言われてから視線をあげた順平さんが、ちらりと私の顔を見たあと、
あっけないほどぼ即答をします。
「あぁいいよ。
いつからでもいいから、好きな時においで。
別に減るもんでもなし、何でも教えるやるさ。
俺でよければ、」
「そうか、有りがたい。
そう言うわけや。
お前、明日からでも、
こいつに弟子入りをせい」
無茶くちゃな話が、
本人を抜きにして目の前で進行をしています。
簡単に頼み事を言う源平さんもそうですが、
聞いた瞬間にもう即答をしている順平さんも、
相当に適当な様子に見えてしまいます。
「おいおい、
軽い気持ちで適当に受け答えをしている訳ではあらへんぞ。
お前さんも、もともとはといえば、板前修業をしていた身だろう?
時間が空いたときに来ればいいさ。
いちから教えてやる」
盃を呑みほした源平さんがそれならば話が早いと、
さらに押し込んできます。
「まぁ、京都の土産だと思ってすこし、
ここで修業せい。
京都に住み着いて骨をうずめるつもりなら、
いくらでも面倒はみてやれる。
俺でも、お千代でも仕事を教えてやることが出来る。
しかしなぁ、京友禅や金箔の仕事というものは、
京都以外では通用はせん。
おそらく日本広しと言えど、通用するのは狭い範囲の、
ごく一部だけじゃろう。
そいつが俺たちの泣き所だ。
それでこいつに頼み込んでみた。
板前の腕なら日本全国どこでも通用をするはずだ。
覚えておいても損の無い仕事だろう。
そんなわけだ。本気でここで世話になったらええ」
作品名:アイラブ桐生 51~53 作家名:落合順平