さくらの木靴
「パパいないからお金無いの」
「何言ってるの」
母親は少女の口を押さえながら
「ごめんなさい。失礼します」
といい立ち去ろうとした。
母親の靴も少女の靴も擦り切れていた。
わたしはどこに行くにもこの親子は歩いて行くのだろうと察した。
親切ついでに靴を買ってあげようと思った。
わたしはまた親子の後を追った。
「宜しければ一緒に花見していただけますか。今日は1人で来たものですから」
「困ります」
「おじちゃん今度は何買ってくれるの」
母親は頭を下げた。
「どんな靴が欲しいかな。靴を買ってあげるよ」
「さくらの靴がいいよ」
「さくらのお花の描いてある靴だね」
「違うよ。桜の木の靴だよ」
「それは困ったな。靴屋さんにないね」
「気にしないで下さい」
母親が言った。
「どうしてさくらの木の靴が欲しいのかな」
「保育園で汚いって言われた」
「悪い子だね」
「いい子だよ。その子。さくらの靴なら桜のように綺麗になれる」
「そうか、そうだね。解ったよ」
「お母さん家まで送らせて下さい。桜の木の靴お届けしたいですから」
「子供の言ってること本気にしないで下さい」
「夢をかなえてあげようと思うのです」