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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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さくらの木靴

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「お母ちゃん綿あめ買って」
「お金がもうないから我慢して」
「欲しいよ~」
3歳くらいの女の子とその母親は20代に見えた。
散って来たさくらの花びらがその泣いている少女の頬に張りついた。
わたしは綿あめを買い、その親子の後を追った。
まだ少女は泣いていた。
花見客でにぎわう公園での事である。母親は泣きやまそうと必死であった。
「ごめんね。今度来た時には買ってあげるから、泣きやんで」
「今がいい」
「良かったらどうぞ」
「知らない方から頂けません」
「この子のために買って来たのですから、どうぞ」
わたしは少女に綿あめを手渡した。
母親は断りはしたが、その断り方は嬉しそうな顔に見えた。
少女は泣きやみ、顔じゅうに綿あめを付けて食べていた。
今の私からすれば綿あめの代金は微々たる金額であった。
この少女の嬉しそうな顔や母親の何度となく言ったお礼の言葉が、わたしは久しぶりに感じた見知らぬ人からの感動であった。
多分今までの自分であれば他人事として見過ごしてしまったであろう。
絆・・その言葉からかもしれない。
少しの優しさをわたしの心に産んでくれたのは・・・・
作品名:さくらの木靴 作家名:吉葉ひろし