「哀の川」 第三十二話
「純一君だったね、杏子がなぜ再婚しないか知ってるかい?綺麗な女性だろう?今だって・・・その気になればすぐに相手が見つかると思うんだけど、俺には解らない事なんだよなあ」
「マスター、知らないんですか?離婚した理由・・・」
「前の旦那だろう?浮気したって聞いてるけど、それは良くここで聞かされていたからな・・・何か関係あると思っているのかい?」
「知らないんだね・・・言っちゃいけないことなのかも知れないけど、杏ちゃん、子供が出来ない身体なんだよ。それが理由だと僕は思うけど・・・そうでなきゃ、とっくに再婚しているよ。本当に綺麗だもの」
「・・・そうだったのか。辛いなあ・・・離婚の理由もそうだったのか・・・言ってくれればもう少し慰められたのに・・・」
「マスター!今からでも遅くないよ。マスターが子供要らないって思うんだったら、杏ちゃんは断らないよ・・・きっと。神戸に帰って来たいと言っていたし」
「純一君、キミはそこまで伯母さんのこと心配してあげているんだね。優しい人だなあ・・・ねえ、キミの何がそうさせるの?教えてよ」
話していいのか解らなかった。自分が伯母に対して出来る恩返しと言うのか、役に立ちたいと願う気持ちがこの話へと向かわせていた。
作品名:「哀の川」 第三十二話 作家名:てっしゅう