「哀の川」 第三十二話
純一は元町のスターキャッツへ友達と来ていた。この歳の7月で20歳になっていたから、マスターも愛想良く迎えてくれた。マスターが勧めたカクテルを飲み、話は杏子のことになった。
「ねえ、マスターは昔の奥さんが忘れられない人だって、杏ちゃんが言ってたけど、本当ですか?」
「ん~そんな事言ったのか、あいつ・・・自分だって、忘れられない人が居るはずなのに・・・まあ、昔はお互いにそうだったのかも知れないな。今は違うぜ、俺はもう誰も愛さない・・・そう決めているから」
「杏ちゃんもそんな事、言ってたよ。誰も愛さないし結婚もしないって」
「へえ~君にそんな話もしているんだ。仲が良いんだね、ハハハ・・・」
マスターは純一が何を言おうとしているのか察しがついた。きっと、伯母の杏子と自分をくっつけようと企んでいるのだろう、それとなく聞いてみた。
作品名:「哀の川」 第三十二話 作家名:てっしゅう