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中川 京人
中川 京人
novelistID. 32501
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はは、負うた子に教えられて大根をもらう

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「ああそうだ。おとといだったか、のんちゃんが来てくれてなあ」
 母は上がりかまちに敷いた新聞紙の上に大根を並べながらしゃべり始めた。葉っぱはすぐに落としといてよ、萎びちゃうから、などと交えながら。のんちゃんというのは、うちの息子、母の三番目の孫のことである。
 聞けばあの晩、息子は友達とふたりで母の家、つまり自分の実家に、猫を飼ってくれろと頼みに行ったというのである。
「そりゃはじめはびっくりしたよ。でもあの子たち、あれでなかなか考えてるんだよ」
 夕餉の支度をしているとインターホンが鳴るので玄関の引き違いを開けたら、孫が真ん中に佇んでいる。その真後ろに一メートルくらい離れて、小箱を持った同じ年恰好の少年が立っていた。
 顔をまっすぐに向けて切り出した言葉が、おばあちゃん猫飼って、だったという。
 ──おとうさんは何て言ってるの、ああそう、飼えないって、もといた所に戻してこいって。ああそれでおばあちゃんちに来たの。あれえ、そんなこと。
 ──いやあ、のんちゃん。おばあちゃんちでも飼えないわ。だってほらうちにはうさぎがいるでしょ。
 まったく困ったことに、母はうさぎを室内飼いしているのだ。だからこんなざまになるのだ。
 ──飼ってあげたいけどねえ、可哀想だけどねえ。うさぎがどう思うかねえ。
 あの手この手の説得にも息子は引き下がらず、顔を上げて決然と言ったそうだ。
 ──おばあちゃん。いっぺんでいいから、猫、見てやってくれませんか。
 そうやって後ろを振り向き、友達から箱を受け取ると、蓋を取って猫を見せたというのである。