海のたより
──ぼたもち──
お彼岸におはぎを食べていて、ふと思い出したことがあります。
昔、実家でものすごく大きなおはぎを作ったことがあったな……と。
もともとはわりと大きくつくるものらしく、春は「ぼたもち」、秋は「おはぎ」と、季節によって呼び名がかわります。
今は「おはぎ」の名が定着しつつあって、かたちも小ぶりのものが多く見られます。
それにしても、昔食べたのは、お茶碗二杯分くらいのごはんを丸めた大きさ(それでも、当時、母が昔はもっともっと大きかったといっていました)で、「ぼたもち」という呼び方がいかにもさわしく思われました。
当然、子どもには食べきれませんでしたけれど。
でも、そんな大きなぼたもちをつくったのは、お彼岸ではなく、漁師の家の慣習で、「ひやり」と言われる行事の時です。
どういう字をあてるのかわかりませんが、主に大漁祈願の意味を持つ行事のようで、かなり昔には神主さんに船を祈祷してもらったそうです。
時期は2月の「吉日」を選んで行われます。
近所の人たちが集まって、小豆を煮、餅米(餅米とうるちを半々にたく場合も)を炊いて、ぼたもちをつくります。できたぼたもちは、2つを漁船にそなえ、あとは家の仏壇などにお供えし、集まった人たちで、食べる習わしです。
船にそなえたぼたもちは、翌日出漁のとき、港をでたところで一つを海に流し、一つを食べるのだそうです。
これは海神への畏敬の念と水難者の鎮魂のためだと言われています。
男の人の「ひやり」は最近では、すっかり「飲み会」と化し、近所どうしの「ひやり」はあまり行われなくなりました。各家でそれぞれ「いい日」を選んで個別にやっているようです。
ところで、春の「ぼたもち」、秋の「おはぎ」以外に、夏と冬にもそれぞ呼び方があることを、最近知りました。
夏は「夜舟」、冬は「北窓」というのだそうです。
おはぎはもちをつきません。すりこぎですったりして米粒を潰します。ですから、つきしらず。月のない夜はいつ船が着いたかわからないから「夜舟」だとか。
冬は月のみえない方角は北。なので「北窓」になったそうです。
名づけ方が強引のような気がしますが、夏と冬の名前は、なんだか別のお菓子のようですね。