海のたより
──鮑腸(ほうちょう)もち──
7月7日は七夕祭りですね。
わたしが生まれた地区では、天王祭りといって、主に子どもを中心にしたお祭りの日です。
この日は学校も、地区の子どもだけは午前中でおしまい、男の子は御輿をかつぎに出かけ、女の子はちょっとおめかしして、御輿のあとをついて歩きます。
ですが、あいにくの梅雨時。この日が快晴になったことは、わたしのこれまで記憶ではほんの数えるほど。ほとんど雨、よくて曇りでした。それでも、友だちと待ち合わせて、御輿のあとを追いかけたものです。
この日、家ではお寿司を作りますが、もう一品『ほうちょうもち』を作ります。
ほうちょうは鮑の腸のことで、その昔、神様がこの地を訪れたとき、鮑が大漁で、それをごちそうしたところ、たいへん喜んで、次の年にもまた来ると約束して帰った。ところが次の年、再び神様が訪れた時には、あいにく鮑が不漁で、考えあぐねた漁師たちは粉を練って、鮑に似せた餅を作ってごちそうした。という伝説に由来するものです。
小麦粉か、米粉を練って平らにのし、ゆでてあんこをつけて食べます。正式な作り方は、粉の半量にヨモギを混ぜ、緑色の餅を作り、白い餅とくっつけてゆでます。こちらは緑と白の二色の餅になって、見た目もきれいです。
調べてみたら、特に九州地方ににたような伝説(ただし、こちらは神様ではなく大名)があって、鮑腸汁を作った、ということで、このほうちょうがほうとうにかわったという説もありました。
この鮑腸汁は、粉を練って平べったい麺状にして、野菜などといっしょに汁で食べるのが主な食べ方で、だんご汁として有名です。また、別に「やせうま」という呼び名の食べ方もあって、こちらは黄粉をまぶして食べるそうです。
ですが、あんこをつけて食べるのは他にはなく、この地方だけのようです。
今、わたしが住んでいるのは別の地区なので、お祭りには縁がなくなってしまい、実家でも母は一人暮らしなので、鮑腸もちを作ることもなくなりました。
そこで、わたしは地区内にお嫁にいった姉からわけてもらおうとたくらんだのですが、やはり子どもが大きくなってしまうと、天王祭りから疎遠になってしまうようで、最近は作らない年のほうが多くなっています。
天王祭り自体、子どもが少なくなって、御輿の担ぎ手がおらず、存続が危ぶまれています。身近な風習や食べ物が一つづつ消えてしまうのは寂しいことですが、時の流れにはさからえないということでしょうか。