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夜明けの呼び鈴

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エレベータが7階に着いた。おじいちゃんの部屋は13号室だ。アメリカあたりの病院だったら、絶対にない番号の病室だろうなと思いながら、廊下の案内に従って、13号室を探した。
13号室は、ナースステーションの正面の部屋だった。13号室は比較的広い二人部屋だったが、今はおじいちゃん一人しかいないようだった。
部屋に入って行くと、正面のベッドに白髪の老人が、鼻に呼吸器を取り付けて横たわっていた。掛け布団のあちこちから、いろんな太さのチューブが伸びていた。
白髪の老人はおじいちゃんだった。目は落ちくぼみ頬はこけ、肌のつやはまったくなくなってカサカサで、つい数カ月前の正月に会ったときとは、別人のようだった。
おじいちゃんは目を開き、まっすぐ前を見ていたが、正面に立った私を見ていなかった。おじいちゃんの視線は、私を飛び越えて、私の背後のどこかを見ていた。それは、以前とは比べ物にならないくらい、弱々しく、力の無い視線だった。
私はおじいちゃんに笑いかけて手を振ったが、おじいちゃんにはなんの変化もなかった。私の存在を認識できていないようだった。
私は気を取り直して、病室の奥のロッカーに歩き、扉を開けた。ロッカーの中は、大人用の紙おむつとタオルとティッシュでいっぱいだった。
赤ちゃんのときにおむつをし、年を取るとまたおむつをする。そうか、人間は年を取ると赤ちゃんに還るというのはこう言うことだったのかと、少し可笑しく、悲しくなった。
私は、持って来た紙袋の中のタオルやパジャマをロッカーに押し込んだ。すると、背後で誰かが部屋に入って来るのがわかった。振り向いて見ると、入って来たのは、まだ若い女性の看護師だった。
「まだしばらくここにいますか?」
看護師が尋ねて来た。
「あ、はい。もう少しいると思います。」
なぜそんなことを尋ねるのだろうと思いながら答えた。
「では、このナースコールは電源を落としておきますね。帰るときに、ナースステーションで声を掛けて下さい。」
なんのことかよくわからなかった。看護師は何かの操作パネルを操作すると、おじいちゃんに手を振って、部屋を出て行った。おじいちゃんのベッドの脇の床に、玄関マットのようなものが置いてあり、そこから壁にコードが伸びていた。
ああ、これがナースコールだったんだ。おじいちゃんが一人でベッドから立ち上がったら分かるように、ベッドの脇の床にマット型のナースコールが置いてあるんだ。
私がさっき踏んだから、看護師さんが来たんだと、私は納得した。
作品名:夜明けの呼び鈴 作家名:sirius2014