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白月と源造じいさん

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 源造じいさんはこの禁漁期にも白月のためにイワナを釣りたいと思い、川を管理している漁業協同組合の組合長に交渉をしたのでした。
 しかし、やはり禁漁期は守らなければなりません。秋はイワナの産卵期です。イワナを守り、子孫を残し、川を豊かにするためにも禁漁期は必要なのです。
「あぁ、イワナが欲しいのぉ……」
 源造じいさんはガックリと肩を落として帰ろうとしました。
「イワナならあるぞ」
 源造じいさんの背中に組合長が声を掛けました。
「本当か?」
 源造じいさんの目が輝きます。
「ああ、釣り堀用に養殖しているやつだがな。まぁ、今の川だってほとんどが放流物よ。あんたとわしの仲だ、格安で譲ってやるよ」
 こうして源造じいさんは漁業協同組合からイワナを買って、白月へのお土産にすることにしました。

 深まった秋が目で楽しめるようになったその日も、源造じいさんは白月に会いに谷川へ出掛けました。
 白月はいつもの淵で源造じいさんを待っていました。そして、源造じいさんの姿を見つけると擦り寄ってきました。ただ、いつも持っている釣竿と魚籠を持っていないのでちょっと不思議そうな顔をしています。
 源造じいさんはリュックサックを河原に降ろすと、中から四十センチもあろうかというイワナの入った包みを出しました。
「もう、お前も冬籠もりの準備をしなければならんだろう。さあ、たんとお食べ」
 熊は冬の間、冬眠します。そのためにも秋には沢山の食料を摂らなければならないのです。
 白月は源造じいさんの差し出した二十匹程のイワナを美味しそうに食べました。
 白月は四十センチ程のイワナを二十匹もたいらげたのでお腹が一杯になったようです。そして源造じいさんの傍らでウトウトと居眠りを始めました。
 源造じいさんは白月の背中をそっと撫でてあげました。今の源造じいさんにとって、こうしている時が一番、心が休まる時でした。
 白月は満足したのか、安心しているのか深く眠っているようでした。
 いつの間にか空が暮れてきました。両側を山に囲まれた谷川は里より暗くなるのが早いのです。懐中電灯も持ってきている源造じいさんですが、やはり明るいうちに帰りたいものです。
「じゃあ、明日もイワナを持ってきてやるからな」
 眠っている白月に小声で呟き、源造じいさんは立ち去りました。

 源造じいさんが川を数十メートル下った時です。
作品名:白月と源造じいさん 作家名:栗原 峰幸