ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(後半)
エピローグ 夏の始まり
翌日。
夏休みが始まった。
澄み渡る海のように穏やか空。
昨日の出来事がまるでなかったかのように、虫たちは鳴き、平和を感じさせる。
この男、以外は―
「―ったく、せっかく見舞いにきてやったのに、パチン、と平手打ちするほどのことでもないだろ」
手のひらの跡ができた右頬を擦りながら、光大は病院をでていく。
「ふふふ、そうかもな」
その光大を笑いながら、乙姫が見つめる。
「あのなぁ・・・・・・その原因を作ったのはおまえなんだぞ。自覚あるのかよ・・・・・・」
「なんだ!?私のせいだと言いたいのか!?」
―全くだ。光大はそう言いたくてしょうがなかった。彼女のせいで、花楓があんな態度に・・・・・・。
あの事件が終わった後、火の四聖神が正気に戻ったのからなのか、火が消えてしまったという。
消防士もかけつけたのだが、その時点で消化困難な状況だったのに、何もせずに消えてしまったことに驚きを隠せなかったようだ。
光大と乙姫は、家から脱出した後、警察にコテンパンに叱られたが(なぜか葦貴は対象に入らなかった)、「あの子たちは私の娘を助けてくれた恩人です! それなのに、なぜあなた方は助かる命を見捨てようとするのですか!?」という、花楓の母親を始めとする、たくさんの島の住人たちによる反転攻勢により、警察から軽く注意を受けるだけで済んだ。
団地に住んでいる者たちは、宮島総合文化高校の講堂で、しばらくは過ごすことになった。もちろん、葦貴も。
しかし、花楓は、背中のやけどと心労により、港の近くにある病院にしばらくの間入院することになった。
それで、お見舞いに行ったのだが・・・・・・。
花楓は、病室に入ってくる、自分よりも明らかに品格の違う、お嬢様のような容姿である、乙姫に驚愕する。
「あ・・・・・・あなたは・・・・・・」
思わず乙姫に指をさしてしまう。
「なんで驚いているのだ? おまえを助けたのはこの私だぞ」
「あ!」
不思議そうに花楓を見つめる乙姫の存在を、彼女は思い出す。部屋中に火が燃え上がって、
何処にも逃げ道がない中、窓ガラスを突き破って、助けたような。
「あの時の・・・・・・!」
乙姫は、ふぅ、一息ついて、
「ようやく思い出したか。まあ、疲労困憊状態だから、うろ覚えになっているのも無理はないが・・・・・・」
と、肩をすくめる。
「わわわ、ごめんなさい!」
顔を下にして、慌てて花楓は謝る。
「ははは、謝ることはないさ。とにかく、生きていて良かったよ」
乙姫は、笑いながら、怒ってない素振りを見せる。
彼女に笑われて、花楓は思わず顔を紅くする。
「まあ、おまえが相変わらずだってことが良かったよ」
微笑みながら、光大は花楓を見つめる。
「それはいいけど・・・・・・」
花楓は乙姫と光大をキョロキョロ見つめる。
「?」
乙姫は、花楓の素振りを不思議そうに見つめる。
そして、焦ったように、
「こ、コウちゃんは、こ、この子と・・・・・・ど、どんな、関係、なの?」
と顔を赤らめて訊ねる。
「え?」
思わず、乙姫の顔を見つめる光大。
そして、意識したのか、顔を赤らめ、慌ててしまう。
「え、え、ええっ!?そ、それは・・・・・・ねぇ」
横目で乙姫をちらっと一瞥する。
乙姫は顎を手に当て、少し考えて、
「ふむ、一言でいえば―パートナーだな!!」
わわわわーーーーーーっっっ!!!!
そ、そんな曖昧な発言をしたら、誤解を生むって!
案の定、光大が想っていたことが、現実のものになる。
「こうちゃん・・・・・・ど、どういう、こ・と・・・・・・?」
静かな怒りが―病人のくせに、獄炎がメラメラと燃え上っているのが視える。
「ま、まて・・・・・・」
そして、二日連続の鉄槌が―。
作品名:ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(後半) 作家名:永山あゆむ