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永山あゆむ
永山あゆむ
novelistID. 33809
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ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(後半)

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 思い切って、中へと進んだ光大が目にしたのは想像をはるかに超えていた。
「な、なんだここは!?」
 家の中へ飛び込むといきなり、地上とは違う別の空間―ゲームでいう、異次元空間に入っていたのだ。紫の色に染められた虚ろな空は、まるで地獄にいるかのようだ。
「と、とにかく、乙姫を見つけないと」
 光大は恐怖に駆られることなく、前へと進んでゆく。
 すると、
「はあぁぁっ!」
 中空でボウガンから矢を放っている乙姫の姿が!
 相手は、ポルタ―ガイストなのか、たくさんの火の弾が踊るようにボウガンを避けていく!
「くっ、すばっしっこい奴め・・・・・・」
 火の弾たちを睨みつける乙姫。
「乙姫! ここは一体何なんだよ!?」
 かけつけてくる少年に驚く乙姫。
「コータ! ・・・・・・な、なんでお前がいるのだ!? 時空管理時計(タイムシフト)の力で、私とアイツだけしか入れないはずだ!」
 タイムシフトというのは、彼女の左腕につけている。インスペクトとは別の、機械仕掛けの腕時計のことだろうと、光大は察知する。
 しかし、この空間に入れたのかは分からず、困った表情で、
「そんなこと言われても・・・・・・って、乙姫!」
 インスペクトの範囲内に入ったからか、火の弾が踊るようにしか見えなかったものが視えるようになり、光大は思わずポルターガイストを指す。
 ―龍だ。
 紅く燃え盛る毛、太陽のように輝く鱗。どれをとっても美しい。
 しかし、目は視線が分からないほどどす黒く、まるで人間たちを排除せん、と言っているかのような禍々しさを放っている。
「・・・・・・こいつはおそらく、宮島に眠る四聖神(しせいしん)の一人かもしれん・・・・・・」
「四聖神って、宮島に伝わるお伽噺にでてくる伝説の!?」
 乙姫の言葉に驚愕する光大。
 彼女は横に振り、
「いや、伝説ではない。実際にいたのだ。菅原道真が、ここに流れ着き、この島の民たちに感銘を受けて、守ることを決めた時、天神様から授かった秘術でこの島に眠る根源―火、水、地、そして、それらを統括する森。それら4つの化身を創りだして、この島を守っていった―それが四聖神だ。そしてコイツはおそらく火の化身―火奄(ひえん)だ」
「・・・・・・」
 伝説が実在するなんて。もはや幻想を超えるレベルに自分がいることに、光大の口は開きっぱなしで言葉がでない。
 すると、
「! 乙姫!」
 火奄の口から、灼熱の火炎弾が二人に目がけて放たれる。
「大丈夫だ。振盾(プロテクション)!」
 乙姫は、小型の機械を取り出し、火炎弾に向ける。すると、火炎弾と乙姫の間には何もないのに、透明な壁が現れたかのように火炎弾をはじく。
「すげぇ・・・・・・」
 これが未来の技術力か、と光大は思わず。感嘆の声が漏れる。
 しかし、弾いていても火炎弾が連続で放たれる。
「くっ!」
 どうやら、紅き龍は防壁を力づくでもこの盾を破るつもりらしい。
「このまま防御一辺倒となると、キリがないな・・・・・・コータ、この装置を持ってろ」
「え? でも、それだと・・・・・・」
「案ずるな。私は負けん。お前は身を守っておけ!」
「ちょっ、乙姫」
 乙姫は、飛び出して火奄の周囲を回る。降り注ぐ火炎弾の矢を交わす。しかし、真正面に襲い掛かる!
「!」
「乙姫、危ない!」
 光大が防壁空間から叫ぶ。
 しかし、こんな危機でも彼女は、
「案ずるな。火の攻撃の防壁なら作れる!水壁(みずかべ)!」
 冷静に火炎弾に向かって手をかざす。すると、彼女の前に地面から水で出来た壁が現れる。水の壁に飲み込まれた火炎弾は、相反する属性故か、消えてしまう。
「うわわわわ・・・・・・」
「これがインスペクトの隠された力―地球上にある、あらゆる力を操る術―源操術(ミスティック・ソーサリー)だ。青のインスペクトだから、水の力が使えるのだ」
 得意げに光大に話す乙姫。
 その現実離れした力に驚く以外の表情はない。
 花楓は火炎弾を吐く隙を狙って跳躍する。
火奄と同じ目線になる。そして、
「くらえ!」
 ボウガンから矢を放つ。
 しかし、火炎弾を吐く素振りはフェイントだった。火奄はそれを避け、尻尾を素早くひるがえす。
 バチーーーーーーン!
「きゃああああ!!」
 乙姫は吹き飛ばされてしまい、透明な壁に激突する。
 彼女はそのままバタッ、と倒れてしまう。
 そして、とどめを刺そうと口に灼熱の塊をためる。
「乙姫ーっ!!」
 光大は傷ついた乙姫の下へと急ぐ。
 火炎弾が発射される。
「うおおおおおっ!!」
 火炎弾が乙姫に直撃する、すんでの所で、光大はプロテクションを発動する!
 バキン! と機械にひびが割れるような音をたて、火炎弾をはじく。
「くっ!」
「コータ!」
「心配ない」
 光大は何とか火炎弾を弾き返す。
 乙姫は立ち上がろうとするも、膝をついてしまう。戦う力が残ってないのだ。
「くそっ! このままだと」
 確実にこの龍の猛火にやられてしまう。何かしないと。
「くらえ!」
 光大は、背負っている竹刀を投げ飛ばす。しかし、竹刀は火奄の体をスーッ、と抜けてしまう。
「な、なんでだよ」
「奴に・・・・・・実体のある道具は効かない、のだ。効果があるのは、私の武器―対霊武器(バスター・ウェポン)のみ、なんだ」
「そんな・・・・・・」
 それじゃあ、絶望的じゃないか。
 こんなの、こんなのって・・・・・・。
 火炎弾が彼らを襲う。
「うわっ!」
 強烈な火炎弾をはじいたからなのか、プロテクションが壊れてしまう。
「あ・・・・・・ああ」
 これで、チェックメイト。
「ち、ちくしょう!」
 悔しさのあまり、床を叩きつける光大。
 もはや成す術がない。
「こ、コータ・・・・・・」
 苦しそうに少年の名を呼ぶ乙姫。
「おまえだけはこれを持って・・・・・・逃げろ・・・」
 彼女はインスペクトを外す。
「は!? おまえ、何を言って・・・・・・」
 突然の出来事に驚愕する光大。
「このまま二人とも死んで行ったら、この島は滅びるだろう・・・・・・そうなれば・・・・・・未来も失われてしまう・・・・・・これを持って逃げろ・・・・・・そして・・・・・・こいつらと戦う力を身につけてくれ・・・・・・」
「馬鹿言うな! おまえ一人を置いてにげれねぇつうの!」
「しかし、武器もないおまえでは戦うことができない。それに、インスペクトは訓練しないと使いこなすことは、ほぼ不可能だ」
「だからって、だからって・・・・・・」
 怒りと悲しみに手が震えてしまう。
 こんな感覚初めてだ。
 諦めたくない、諦めたくない! でも、このままでは・・・・・・。
 諦めて、彼女の言う通りに従って・・・・・・。
 その時―

『口先だけでは、何も変えられんぞ』

 ―亡くなった祖父の言葉が脳裏に浮かぶ。

 ・・・・・・。

 そうか。
 そうだったんだ。
 俺は、ただ、あの空気に甘えていただけだったんだ・・・・・・。