ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(後半)
思い切って、中へと進んだ光大が目にしたのは想像をはるかに超えていた。
「な、なんだここは!?」
家の中へ飛び込むといきなり、地上とは違う別の空間―ゲームでいう、異次元空間に入っていたのだ。紫の色に染められた虚ろな空は、まるで地獄にいるかのようだ。
「と、とにかく、乙姫を見つけないと」
光大は恐怖に駆られることなく、前へと進んでゆく。
すると、
「はあぁぁっ!」
中空でボウガンから矢を放っている乙姫の姿が!
相手は、ポルタ―ガイストなのか、たくさんの火の弾が踊るようにボウガンを避けていく!
「くっ、すばっしっこい奴め・・・・・・」
火の弾たちを睨みつける乙姫。
「乙姫! ここは一体何なんだよ!?」
かけつけてくる少年に驚く乙姫。
「コータ! ・・・・・・な、なんでお前がいるのだ!? 時空管理時計(タイムシフト)の力で、私とアイツだけしか入れないはずだ!」
タイムシフトというのは、彼女の左腕につけている。インスペクトとは別の、機械仕掛けの腕時計のことだろうと、光大は察知する。
しかし、この空間に入れたのかは分からず、困った表情で、
「そんなこと言われても・・・・・・って、乙姫!」
インスペクトの範囲内に入ったからか、火の弾が踊るようにしか見えなかったものが視えるようになり、光大は思わずポルターガイストを指す。
―龍だ。
紅く燃え盛る毛、太陽のように輝く鱗。どれをとっても美しい。
しかし、目は視線が分からないほどどす黒く、まるで人間たちを排除せん、と言っているかのような禍々しさを放っている。
「・・・・・・こいつはおそらく、宮島に眠る四聖神(しせいしん)の一人かもしれん・・・・・・」
「四聖神って、宮島に伝わるお伽噺にでてくる伝説の!?」
乙姫の言葉に驚愕する光大。
彼女は横に振り、
「いや、伝説ではない。実際にいたのだ。菅原道真が、ここに流れ着き、この島の民たちに感銘を受けて、守ることを決めた時、天神様から授かった秘術でこの島に眠る根源―火、水、地、そして、それらを統括する森。それら4つの化身を創りだして、この島を守っていった―それが四聖神だ。そしてコイツはおそらく火の化身―火奄(ひえん)だ」
「・・・・・・」
伝説が実在するなんて。もはや幻想を超えるレベルに自分がいることに、光大の口は開きっぱなしで言葉がでない。
すると、
「! 乙姫!」
火奄の口から、灼熱の火炎弾が二人に目がけて放たれる。
「大丈夫だ。振盾(プロテクション)!」
乙姫は、小型の機械を取り出し、火炎弾に向ける。すると、火炎弾と乙姫の間には何もないのに、透明な壁が現れたかのように火炎弾をはじく。
「すげぇ・・・・・・」
これが未来の技術力か、と光大は思わず。感嘆の声が漏れる。
しかし、弾いていても火炎弾が連続で放たれる。
「くっ!」
どうやら、紅き龍は防壁を力づくでもこの盾を破るつもりらしい。
「このまま防御一辺倒となると、キリがないな・・・・・・コータ、この装置を持ってろ」
「え? でも、それだと・・・・・・」
「案ずるな。私は負けん。お前は身を守っておけ!」
「ちょっ、乙姫」
乙姫は、飛び出して火奄の周囲を回る。降り注ぐ火炎弾の矢を交わす。しかし、真正面に襲い掛かる!
「!」
「乙姫、危ない!」
光大が防壁空間から叫ぶ。
しかし、こんな危機でも彼女は、
「案ずるな。火の攻撃の防壁なら作れる!水壁(みずかべ)!」
冷静に火炎弾に向かって手をかざす。すると、彼女の前に地面から水で出来た壁が現れる。水の壁に飲み込まれた火炎弾は、相反する属性故か、消えてしまう。
「うわわわわ・・・・・・」
「これがインスペクトの隠された力―地球上にある、あらゆる力を操る術―源操術(ミスティック・ソーサリー)だ。青のインスペクトだから、水の力が使えるのだ」
得意げに光大に話す乙姫。
その現実離れした力に驚く以外の表情はない。
花楓は火炎弾を吐く隙を狙って跳躍する。
火奄と同じ目線になる。そして、
「くらえ!」
ボウガンから矢を放つ。
しかし、火炎弾を吐く素振りはフェイントだった。火奄はそれを避け、尻尾を素早くひるがえす。
バチーーーーーーン!
「きゃああああ!!」
乙姫は吹き飛ばされてしまい、透明な壁に激突する。
彼女はそのままバタッ、と倒れてしまう。
そして、とどめを刺そうと口に灼熱の塊をためる。
「乙姫ーっ!!」
光大は傷ついた乙姫の下へと急ぐ。
火炎弾が発射される。
「うおおおおおっ!!」
火炎弾が乙姫に直撃する、すんでの所で、光大はプロテクションを発動する!
バキン! と機械にひびが割れるような音をたて、火炎弾をはじく。
「くっ!」
「コータ!」
「心配ない」
光大は何とか火炎弾を弾き返す。
乙姫は立ち上がろうとするも、膝をついてしまう。戦う力が残ってないのだ。
「くそっ! このままだと」
確実にこの龍の猛火にやられてしまう。何かしないと。
「くらえ!」
光大は、背負っている竹刀を投げ飛ばす。しかし、竹刀は火奄の体をスーッ、と抜けてしまう。
「な、なんでだよ」
「奴に・・・・・・実体のある道具は効かない、のだ。効果があるのは、私の武器―対霊武器(バスター・ウェポン)のみ、なんだ」
「そんな・・・・・・」
それじゃあ、絶望的じゃないか。
こんなの、こんなのって・・・・・・。
火炎弾が彼らを襲う。
「うわっ!」
強烈な火炎弾をはじいたからなのか、プロテクションが壊れてしまう。
「あ・・・・・・ああ」
これで、チェックメイト。
「ち、ちくしょう!」
悔しさのあまり、床を叩きつける光大。
もはや成す術がない。
「こ、コータ・・・・・・」
苦しそうに少年の名を呼ぶ乙姫。
「おまえだけはこれを持って・・・・・・逃げろ・・・」
彼女はインスペクトを外す。
「は!? おまえ、何を言って・・・・・・」
突然の出来事に驚愕する光大。
「このまま二人とも死んで行ったら、この島は滅びるだろう・・・・・・そうなれば・・・・・・未来も失われてしまう・・・・・・これを持って逃げろ・・・・・・そして・・・・・・こいつらと戦う力を身につけてくれ・・・・・・」
「馬鹿言うな! おまえ一人を置いてにげれねぇつうの!」
「しかし、武器もないおまえでは戦うことができない。それに、インスペクトは訓練しないと使いこなすことは、ほぼ不可能だ」
「だからって、だからって・・・・・・」
怒りと悲しみに手が震えてしまう。
こんな感覚初めてだ。
諦めたくない、諦めたくない! でも、このままでは・・・・・・。
諦めて、彼女の言う通りに従って・・・・・・。
その時―
『口先だけでは、何も変えられんぞ』
―亡くなった祖父の言葉が脳裏に浮かぶ。
・・・・・・。
そうか。
そうだったんだ。
俺は、ただ、あの空気に甘えていただけだったんだ・・・・・・。
作品名:ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(後半) 作家名:永山あゆむ