太嫌兎村
時は春うらら。久々の休日だ。
高見沢は連日の過重業務から解放されて、リフレッシュのためにと、今日本海へと車を走らせている。
しかし今日は、この一本道の分岐点辺りまで来て、いつもと違った思いが込み上げてくる。
無視したまま通り過ぎてしまうことができなくなったのだ。
「何だよ、あの道は…、いつまで経っても標識も掛からないし、それに車が入って行ったのを見たこともない。 その行き着く先は、一体どこなのだろうかなあ?」
なぜか急に好奇心が湧いてきた。
「ヨーシ大冒険だ、あの道へと入って行って、どこへ辿り着けるか確かめてみるぞ」と決心する。
こうして高見沢は、すでに一本道への入口を通り過ぎてしまっていたが、急遽Uターンし、その未知なる道へと侵入して行ったのだ。
今、元の国道から離れ、高見沢はどんどんとその一本道を走り進んでいる。
そして高原を突っ切り、山峡の地となった。
道路状況はさほど悪くない。むしろドライブし易い。
迫りくる山々の隙間を曲がりくねりながら、10分程度走っただろうか、突然三叉路にぶち当たった。
そこにはやはり標識がない。
高見沢は用心深く一旦車を止める。
「さぁーてと、困ったぞ、右に行ったら良いのか、それとも左に行くべきなのか?」
どちらにしようかと迷ってしまって、なかなか結論が出せない。
「これだけ迷うということは、これはひょっとしたら俺の人生そのもの、その時々に出くわしてきた岐路と同じことだなあ」
まことに大袈裟なことを呟いてしまっている。
そして、しばしの思案の後に、高見沢は遂に結論を出す。
「えいっ、右だ!」
人生での岐路に直面して、左右どちらに行くか、その方向を決める時とまったく同じ。
最後の決断、やっぱりね。
それは――『ハズミ』と『イキオイ』。
その後、また機嫌良く走り出すのだ。