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太嫌兎村

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 日本海はいつも茫洋とした太平洋と一味違う。
 四季折々に変化し、異なった表情を見せてくれる海。 
 高見沢はそんな日本海に同化してしまうと心が安らぎ、大好きで、折にふれ逢いに行く。

 高見沢が住んでいる町から日本海まで、大きな国道が貫いている。
 町から離れ、そんな国道をしばらく走ると山々が迫ってくる。
 そこを車でくねくねと登って行く。
 そして峠を越えれば高原となる。 
 高見沢は、そこをさらに西へとドライブする。

 日本海側へと続く幹線道路。
 そんなルートの半ばに、目立たない分かれ道がある。
 それは国道を起点として、より山岳へと伸びる一本の道。
 だがよほど気を付けていなければ、目にも留まらず、やり過ごしてしまうほどのマイナーな道なのだ。
 車二台がやっとすれちがうことができる程度の道路幅で、あまり広くない。
 だが場違いの舗装がきっちりとされている。
 こんな野っ原の中で、なぜと思いたくなるほどのきれいな道が山の方へと伸びている。

 しかし、おかしなことだ。  
 その一本道の行き先表示がされてない。
 また、高見沢は何回かこの国道を走っているが、未だこの脇道へと曲がって行った車を見たことがない。

 そんな奇妙な一本道が――、そこにはあったのだ。


作品名:太嫌兎村 作家名:鮎風 遊