太嫌兎村
太嫌兎村に別れを告げてから、三ヶ月の月日が流れた。
今高見沢は、オフィスでの一日の仕事を終えて、家路へとぶらぶらと歩いている。
見上げれば、ビルの谷間にぽっかりと白く干からびた都会の月がある。
高見沢はなぜか突然に、太嫌兎村での出来事を思い出した。
あの時出逢った夕月ウサちゃん。
その指導の下で、半日ダイエットコースを体験した。そして奇妙な満足感を覚えながら、もと来た三叉路の進路を慎重に選び国道に戻り着いた。
いわゆる下界へ、無事帰還したのだ。
あれから三ヶ月が過ぎてしまった。
高見沢は今、以前と変わらぬ普通のサラリーマンの生活に戻っている。
そして今日も、いつも通り仕事に追われて忙しかった。
それは単に多忙なだけで、その生き様はと言うと、イライラとタラタラが混ざり合った状態、言葉を換えれば惰性というようなもの。
【夢痩せ】
それは男の究極ダイエット・ライフ。それからはほど遠い。
しかし、高見沢は最近反省している。
「こんな生活態度じゃダメだなあ、夕月ウサちゃんと村長さんに約束したように――、もっと夢を一杯食べて…、身も心もスリムにして生きて行かないとなあ」
高見沢はそんなことを、ビルの谷間の向こうにある、白く干からびた月に向かってポロリポロリと呟いた。