太嫌兎村
高見沢は赤いトンガリ帽子の役場から外へ出て、車に乗り込んだ。もう辺りはとっぷりと暮れていた。
山と山の間には、高見沢が今まで見たことがないような大きくて、そして赤い満月がぽっかりと浮かんでいた。
高見沢はそれをじっと仰いで見てみた。
月では、ウサギの餅つきが始まっているようだ。
多分太嫌兎村と同様に、ダイエット中級コースの燃脂プログラム実行中なのだろうか。
「それにしても、この太嫌兎村の月はなんと赤いことか、――、異様に奇麗だよなあ」
後を振り返ると、桃花ウサギ村長と夕月ウサちゃんが大きく手を振ってくれている。
その周りでは、二人に纏(まつ)わり付くように、白ウサギ達がピョンピョンと跳ね回っている。
月明かりが盆地全体の桃の花を淡く照らし出し、ぼやっと太嫌兎村全体を包み込んでいる。実に摩訶不思議な光景だ。
高見沢の瞼の裏に、そんな情景が決して消えることなく残った。
そしてこれこそが…、高見沢の永遠の残像となってしまったのだ。