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太嫌兎村

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 高見沢は、そんな深淵なる女性の不思議を知らなかった。
 目から鱗が…、いや鱗から目が落ちるほどの驚きだ。

「えっ、女性の脳って、そんな構造になってたのか。と言うことは、恋して、愛すれば愛するほど、つまりその身を焦がせば焦がすほど、愛中枢が近くにある満腹中枢に影響を及ぼし――、お腹も満腹と感じるようになるということ?」 
 高見沢は推測で確認してみた。

「高見沢さん、中年の割に回転早いじゃん、その通りよ。女性は恋して愛すれば、満腹中枢は刺激されっぱなしとなってね、二十四時間いつも満腹状態になるのよ。だから、もう食事なんかは不要なの。すなわちこの方法、恋をしてその身を焦がせば、スリムになれるのよ。したがって、この身を焦がす【焦身】こそが、女性だけのための究極ダイエットコースなの。理解できた?」 

 夕月ウサちゃんはこんな理屈をとうとうと述べて、大きく息を「ふー」と吐いた。
 一方高見沢は、夕月ウサちゃんの熱弁をじっくり聞いていた。そして何を思い付いたのか、突然に話し始める。 
「夕月先生、俺、このコースがめっちゃ気に入りました。それでなんですが、男の場合…、その満腹中枢と愛中枢、それらがどれくらい影響し合っているのか、またどれくらい痩せられるのか確かめてみたいと思います。さっそくですが、先生を題材にして、そんな実験に取り組んでみたいのですが――、ご協力をお願いできませんか?」

 これぞ錯乱状態。
 もちろんウサ先生はこの要望に対し実に冷たかった。


作品名:太嫌兎村 作家名:鮎風 遊