太嫌兎村
国道から反れての一本道。そして何回かの三叉路に出くわして、右か左かを選択をしてここまでやってきた。
多分、阿弥陀くじみたいに、それぞれの選択の行き着く先にはいろんな村があるのだろう。
そして高見沢は声を震わせて叫んでしまう。
「ウッソー! 最後の一つを、もし左に進路を取ってたら、地獄村行きだったってか、ひぇー!」
女性は微笑むだけで、別段のリアクションもしてこない。そして今度は実に事務的に、「折角、太嫌兎村を訪問して頂きましたので、村長を紹介させてもらいます、少しお待ち下さい」と言い、サッと奥の方へと消えて行った。
高見沢は、「地獄村に落ちるか、桃源郷で舞い上がるか、メッチャ危なかったよなあ」と呻き、ゾーと背筋を寒くしている。
これから自分の身に何が起ころうとしているのか、それが想像し切れず、ただ呆然としている。
しばらくして、「中へどうぞ」と声がかかり、高見沢は奥の一室へと案内される。そこには、一人の女性が柔らかい微笑みを浮かべて待っていたのだ。
年の頃は四十歳前。清楚な色香が漂ってくる。
そして、透き通るような美しい声で挨拶があった。
「高見沢さん、ようこそ太嫌兎村へ、私が村長の桃花ウサギです。貴方自身の人生、いくつかの岐路を選択して、よくぞ私どもの村にお出で頂きました、心より歓迎致しますわ」