太嫌兎村
「その通りなんですよ、途中三叉路が何回もあって、右に左にといろいろ選んで進んできましたよ。それで最終的に、やっとここへ辿り着けたのですよ」
高見沢がそう返事をすると、女性は嬉しそうに話してくる。
「そうですか、高見沢さん御自身がそれぞれ遭遇された岐路で、右に左にと選んでここまで来られたのですか、本当に良かったわ、おめでとうございます。
ところで、太嫌兎村の隣村はどこか御存知ですか?」
女性がおかしな質問をしてきた。
「そんなん俺、知りませんよ、どんな所なんですか?」と聞き返した。
すると女性は澄まして、さらりと。
「隣村は…、地獄村です」
「えっ」
高見沢は目を白黒させる。女性はそんな驚きにかまわず、ちょっと砕けた感じで、京風に続ける。
「もし最後の岐路選択を、高見沢はんが間違ってはったら、地獄村に落ちてはったんエ、本当にラッキーさんやったわ。貴方はんのような幸運な方はそう滅多には、いやらしまへんし…、たいがいの男はんは釜茹(かまゆ)でされてはるわ」
高見沢はそんな物騒な話しをじっと聞いているだけだった。