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ある村での実情

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ユラの引越し




 ユラはその封筒を郵便受けの中に突っ込む。
 少し晴れやかな気分になったが、同時に大変なことをしてしまったと思う。
 あいつに手紙を送った。お前のやっていることは逆効果だと。無論あいつがそれを読むかどうかは分からない。だけど、それを行わずにはいられなかった。
 何故なら、このまま何もせずに村を離れるのが、ユラは嫌だったからだ。それは負けを認めるように感じられたのだ。
 ――ただ、その封筒の返事が届かなかったのが、ユラにとって多少なりとも気楽なものとなった。

 空気が品評会事件から丸一日経った。村は以前まで空気を濁し、閑散と、しかしピリピリとした空気が流れていた。
 村の彼方此方で仕事の相談をしていた会話が聞こえていたが、今では愚痴や引越しの相談ばかりである。あとは嘆きの声が少々。それらによってブレンドされた空気を作ったのは、紛れもない。品評会会場を散らかした裸の王様であった。
 ユラはそんな村をぼぅっと散策していた。新しく来た移民さんを見つける。運が悪いことに、裸の王様に絡まれていた。
 助けた方がいいのだろうかと思案したが、しかし、行動には移せなかった。自分らも人のことは言えないのだ。この前、数人で作ったチームの集会所にヤツが乱入してきたのだ。
 何か力が必要なら俺に相談しろと叫んで消えていったが、正直な話、ヤツに頼むことなんてこれっぽっちもなかった。
 それどころか、ヤツに口を出されて、作物の制作に滞りが起こるのが一番の問題となった。しかもヤツには集会所の場所を知られてしまった。新しい集会所の用意を行わなくてはならないのだが、企画主の都合もあって、集会所は開業閉店状態で制作に入るまで少し時間が掛かりそうだ。
 気が付けば、彼がこの集会所をもう一度訪れることを考え、メッセージを残していた。
『ここは自分たち四人のチームで、他に参加者は募ってない。それに、ここじゃ貴方の希望は満たせませんよ』
 結局はこのメッセージが届いたのかは分からないまま、集会所は封鎖状態となった。
 さて、そんなこともあり、いつものようにお世話になっているギルドの集会所へと足を運ぶ。このギルドは前述のチームの親組織みたいなもので、チームの構成員は全てこのギルドの所属である。
 しかし、このギルドは殆ど会議室のみの状態となっている。ギルドの機能の殆どが隣村に移っているからだ。
 まあ、それでも未だにここの会議室に人が残っているのは、なんだろうか。一種の名残惜しさがあるからだろうか。
 それに、一部施設の移設がまだ済んでいない。それがまた、彼らをここに残らせた原因の一つだろうか。
 やはりこのままじゃダメなんだろうか。ここにいたいという気持ちは強かっただけれど、ここにいても仕方がないという気持ちも強かった。
 遠くで大きな声が聞こえる。無論それは、ここ最近になって聞きなれてしまった声だ。
 悩みながらも、村外れの草庵への帰路に着く。
 ユラは思う。このままここにいても、きっと腐ってしまう。チームの乱立、自己の神格化、裸の王様の行動は眼に余る。そして、それらの行動によって、この村からは住民はどんどん消えてゆく。
 ユラが村を離れる決意をしたのは、それから間もなく。草庵に付く頃には終わっていたのだ。
 ――しかし、ユラは気付かなかった。ずっと下を向いて歩いていた為に、気付かなかったその小さな変化に。

 次の日の夜。ユラの許に便りが届く。
 ユラはギルドの連絡事項かな、と思い、その手紙を開いた。
「これってっ!」
 その手紙を読んだユラは、慌てるように草庵を飛び出した。
 ギルドの集会所に飛び込んだユラは、こう叫んだ。
「あいつが村から出て行っているっ!」

作品名:ある村での実情 作家名:最中の中