Life and Death【そのさん】
「主に乱れているのはシアちゃんだよぉぅっ!」
「何を言うのですか……一番乱れるのはお姉ちゃんなのです……」
「な、な、なにをっ! というか乱れ『てい』るから『てい』を抜くだけでこんなに意味が変わるんだっ! 日本語って不思議っ!」
ちょっとヒキかける義輝であったが、この会話でこの姉妹に付いてよく分かった気がしたのも事実だった。こりゃダメなタイプの人間だ。
次は、角部屋の二〇五号室。最後の部屋だ。
「夢野ちんは……」
「……あの人は……」
「なんでそんな腫れ物を扱うような目をしてんだよ」
このアパートの中では割りと普通の人間に入るのではないか? 少なくともこの姉妹よりマシだ。義輝はそう思った。
「いや、だって、夜中にエロ本を立ち読みした後にコーラとメントスを買って帰るのが日課なんて、普通の人じゃないよっ!」
「何で知ってんのさっ!」
夢野だ。丁度今起きてきたのだろうか、少し眠気が顔に残っている。
いや、正確に言えばその眠気も今の会話を聞いて吹っ飛んでしまったのだろう。
「そりゃもう……」
「……ざ・すとーきんぐなのです」
「オーケー。そこに直りなさい。小一時間説教してあげます」
そう言ってどこからか鞭を取り出す夢野。妙にサマになっているなぁとか思いつつ、義輝も正座する。いつの間にか自分まで正座してしまっていることに、ついぞ気付かない義輝である。
「いや、だって、気になるよぉ」
「……そうなのです。気になってしまうからストーキングするのです」
「いや、ストーキングの理由になんねぇよ……」
ストーキングが許されるのは警察と、後はギリギリで探偵が入るぐらいか。
「気になるじゃないっ! コーラとメントスをどう使うかっ!」
「そこかよっ!」
いや、でも、言われてみれば確かに気になる。なんで毎度毎度コーラとメントスを買って帰るのだろうか。ただ単に好物だからだろうか。口では言わないものの、義輝はその元来の性格ゆえか、やっぱり気になってしまう。
「まさかあんなことに使うなんて……」
「……過激なのです。私たちでもあんなこと」
「あんたらそこまで見てんのかぁぁぁぁぁぁぁっ!」
取り乱す夢野。うわぁ、この人がここまで追い詰められるのは始めてみたぞ。そう思いながらも、ふと義輝の脳裏に何かが引っかかる。
コーラとメントス。なんかこの二つは非常に相性が良かった気がする。いや、悪かったのか? 義輝はメントスコーラについて思い出せそうな思い出せないような、そんなもどかしさに首を傾げる。
「とにかく、今後こんな趣味の悪い遊びはナシっ! つーかあんたら何歳だよっ! いい大人でしょっ!」
「永遠の十七歳☆」
「五百と七歳なのです……」
おばさんとSNSなどで年齢を誤魔化す大学生がそこにいた。
「それはそうと、なんかアパートの中が生臭いんだけど、誰か生ごみとか放置してないわよね?」
「それは……」
「……えっと」
口ごもる姉妹。確かに言いづらいよなぁ。
「アパートの中が血塗れだったんだよ。このアパートの廊下全部血塗れ。一体誰がこんな悪戯……」
「気持ち悪い。それ悪戯だったとしたらなんて趣味の悪い悪戯……」
「警察、呼ぶか?」
本当に悪戯なのだろうか。悪戯だけでここまでするだろうか。アパートの廊下を血塗れにするような量の血を、どこから調達したのだろうか。少し考えるが、こーいうのは警察に任せた方がいいんじゃないかと義輝は考え始める。
「止めた方が、いいのです……」
ふと、シアがそう口にした。
「……どうせ警察もマトモに取り合いません。それに、これは警察の領分ではないのです」
「だったら、霊媒師でも呼ぶか? 幽霊の仕業なら、十分ありえるってか?」
「それは、もっと、お門違い……」
そう言って、シアは談話室を出た。シノもまた、その姿を追う。
「なんだってんだ?」
「さあ?」
首を傾げる両者であった。
作品名:Life and Death【そのさん】 作家名:最中の中