Life and Death【そのさん】
白昼の下、それは蠢く。この辺り一帯はゴーストタウンの様相を呈している。特にこの辺の民家にはほとんど入居人がいない。
冬の冷風の下でも、それにとっては太陽の光というのは苦手なのだろう。大量の汗を流していた。真っ赤な汗を。
その肉の塊は血の汗を流しながら、人気の少ない道を小さな足と手でのたずり回る。身体がぶくぶくと膨らみ、爆ぜ、腐り、そしてまた再生しながら、大量の血の汗を流す。それでも死に切れず、結果血の海を作りながら歩く生き物である。
唯一つ、肉の塊から飛び出ている目玉が、その姿を目に映す。
「まあ、あなた自身は悪いことをしてませんが、流石にアパートの中を汚されるのは困りますからね……」
洗面桶を被り、ぬいぐるみを引き摺る姿。それは肉槐が見た人間の中でもトップレベルの異様な姿だった。晩生内五月雨である。
彼女の姿を認めた肉槐は、踵を返す。
「――速いっ」
見た目の割りに、それは異様な速さで逃げ回る。
数十分ほど追い回しただろうか、結局その肉槐の姿を五月雨は見失ってしまった。
アレは一体なんだったのだろうか? 幽霊でなければ、五月雨が見た生き物の中にはあんなものはいなかった。いっそここがT大の敷地内だったら、人面犬や動物実験といった都市伝説も手伝い、一応の納得はできるのだが……。
なんにせよ、これでしばらくは近寄らないだろう。それに、態々殺す必要もない。そう思って踵を返す五月雨。
だが、その予想はこの後すぐに覆されることになるのであった。
『こっち、こっち……』
聞こえざる声、見えざる姿の住民は、それを招きよせる。
『おいで。お前、会いたい奴がいるんでしょ?』
だが、ソレはその姿をしっかりと見つけていた。
宵闇の中、ソレと彼女はその建物の中に入る。
それは、晩生内五月雨が帰宅する直前のことだった。
作品名:Life and Death【そのさん】 作家名:最中の中