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空を泳ぐひと

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ぼくは次第に口を「あ」の形にして見続けた。少しずつ頭の中が軽くなっていくのがわかる。そして頭が大きく膨らんだような気持とともに、身体全体がふわっと浮いて笑い出したくなるような気分に包まれた。
「あっ、この感じ、どこかで……」
プールで初めて何メートルか泳げた時を思い出した。

ぼくは空を泳いでいた。プールで泳ぐのとは違って全然疲れることがないし、じっと動かないで居てもおぼれる心配はなかった。手と足の動かし方でいろいろな泳ぎ方ができる事もわかった。ぼくのずっと上のオレンジ色のものめがけて近づいて行ったら、あと少しで触れるという瞬間にそれはパッと消えてしまった。そしてそのままぼくが下の方に戻って上を見ると、さっきからそこにあったというようにゆったりと浮かんでいる。

ぼくは両手を腰のあたりでひらひらさせながら、ゆっくりと空を泳いでいた。ふと気が付くと、隣を泳いでいる人が居る。驚いたぼくはバランスを崩して地面の方へ落ちそうになった。その瞬間ぼくの手が引っ張られ、やっとそれがあの変なおじさんだとわかり、元のようにゆっくりと泳ぐことができた。おじさんはぼくの手を離すと、ニッコリ笑って少し上空に向かって泳いでいった。

作品名:空を泳ぐひと 作家名:伊達梁川