空を泳ぐひと
「ゆう! そんなとこで何してるの!」
突然、大きな声が耳に飛び込んできてぼくは墜落してしまった。
「塾から電話があって欠席ですかと言うものだから、そんなはずはないと言ってから、心配だから探していたら、ああ、あなたはこんなとこで口を半開きにして空を見上げて」
お母さんはそれからずーっと家に帰るまで怒鳴り続けていた。こんなに怒ったお母さんは初めてで、ぼくは自分が情けなくなり、これからは空を見ないで歩こうと心に誓った。
今日も自転車にのって下を向いて塾に向かっている。公園の横を通るときに黒い貝殻の様なものを拾った。太くて丸いところから急にしっぽのように細くなり、巻き貝のように溝があった。なぜか懐かしく感じるそれをポケットに入れてまた走り出した。ぼくの頭が少し重くなった気がした。
(了)