空を泳ぐひと
頭の中がだんだんと空っぽになっていく感じは、とても気持ちがいいことだった。それでも、頭からのどのあたりで何かがまだ出ていくのをためらっている。【じゅく】という文字が浮かんだが、それは【じゅ】になりやがて【じ】だけになり、やがてなくなった。
ぼくは体がふわふわするのを感じていた。頭が空に引っ張られているように感じたし、自分がふうせんになった気分だった。
ためしにジャンプしてみると体がすーっと上に上がり、ぼくはあわてて手をばたばた動かした。身体があちこちに動き回る。そのうちに手の動きと足の動かし方で飛べる方向が少しずつわかってきた。
下を見ると自転車が小さく見えていて、それもだんだん小さくなっていく。ぼくは両手をあげて空を押し戻す格好をした。すーっとエレベーターで下に降りる感じとともに自転車がだんだんと大きく見えてきた。今度は足を使って軽くジャンプの格好をした。身体がすーっと空に向かい、両手を前に伸ばしたら前に進んだ。公園の桜の木が真下に見えた。両手を後ろに向けたら空中にとどまり、少し上に上げたら丁度桜の木の上に乗ることができた。ぼくはふわふわと気持ちのいい空中飛行がたいへん気に入ってしまった。
公園の向こうに自転車が見える。頭の中で何かを思い出そうとして、ごちゃごちゃしてきた気がした。もう何だかわからないが自転車の方へ行かなければという思いがして、両手を自転車の方へ向けた。