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近未来のある日

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 こんな時代が来るなんて、私は予想していなかった。
 時が過ぎれば、どんな病気やけがも治るようになると思っていた。交通事故そのものすらなくなると、そう思っていた。しかし、妻は事故にあい、植物状態。治すことはできないという。
 びしょぬれのまま病院に辿り着き、受付で妻のいる病室を聞き出す。すぐにその病室に向かい、引き戸を開ける。
 そこには、けがの治療により、頭から始まりいろんなところに巻かれた包帯と、いくつもの管に包まれた妻が、眠っているかのようなやすらかな顔で横になっていた。
 そばにいたロボットは、静かに妻の顔を見つめていた。ふいにこちらに視線を向け、口を開いた。
「本日、買い物に出かけられました奥様は、商店街を抜けたところにて、小動物を避けようとした自動車に」「黙れ!!」
 私の言葉に反応し、ロボットは口を閉ざす。
「すまん。取り乱してしまった。二人だけにしてくれないか」
 ロボットは口を開かず、ただ静かにうなずき、病室をあとにした。
 私は妻の手を握り、いろんなことを話しかけた。出会った日のこととか、今朝の会話とか、とにかくなんでも。今朝までは、こんなこと恥ずかしくて話せるはずのないことまで話した。
「返事をしてくれ」
 私は答えてくれるはずのない彼女の手を握りしめた。
「そんなに強く握ったら痛いわよ」
 ハッとして顔を上げる。そこには、やさしく微笑んでいる綺麗な顔があった。
 自然と涙がこぼれ落ちてきた。目を開けてくれた。妻が起きた。そんな事実だけで涙を流すことになるとは、いままで考えたこともなかった。
 思わず、彼女に抱きつこうとした。……その時、気がついた。
作品名:近未来のある日 作家名:浪戸 光