近未来のある日
こんな時代が来るなんて、誰が予想しただろう……。
家から出ると、玄関先を、箒で掃いているロボットと目が合った。
「旦那さま、お出かけでございますね。外出の認識、完了いたしました。本日の外出はその服装では少々お寒いかと、このマフラーをお持ちください。それと、日が暮れるころまでにお帰りになられないのでしたら、傘も必要かと。」
ロボットは、私にそれらを渡すと、また箒でせっせと掃き掃除を始めた。
私は、受け取ったマフラーを身に着け、傘をカバンに入れた。
とりあえず前々から買うつもりだった本を求め、本屋に向かう。ひんやりとした空気が肌を撫でる。本屋の自動ドアをくぐって出てきた青年は、寒そうに首を縮めながら足早に店を後にする。すれ違うように私は、暖かい店内に足を踏み入れる。
買う本が決まっているので、本が陳列されている棚をスルーし、真っ直ぐカウンターに向かった。
店員がにこやかな笑顔でこちらを見つめる中、無言で手を読み取り機にかざす。手に内蔵されたチップが、私の思考をそのまま読み取り機に伝える。それを受け取った別の店員が、本をカウンターまで持ってくる。
カウンターに置かれた本を無言で受け取る。代金はすでに、手をかざした時点で、電子マネーによって支払われている。
購入した本を片手に店を出る。先ほどの青年と同じように首を縮めずにはいられない寒さだ。
近くの小さなレジャーパークのベンチに座り、買ったばかりの本を開いた。内容は、簡単に言うとミステリーだ。私はこの手の小説には目がない。
今はほとんどの書物が電子書籍で読むことができるが、やっぱり紙の良さから離れることはできない。私と同じ考えの人間がいるおかげで、紙の書籍は生き残っている。
少々読み進めたところで、友人に伝えることがあったのを思い出した。連絡を取ろうとしたが、そこで初めて、携帯を忘れたことに気がつく。いますぐ伝えるべきことでもなかったのだが、ひまなので徒歩で、友人宅を訪れることにした。
友人は留守らしく、ロボットが出迎えてくれた。彼のロボットの通信機能を通じて友人と話をする。「これでは電話と同じだな」思わず息を吐き出してしまった。