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僕の村は釣り日和11~フィナーレ

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「うん。ここにしよう」
 小野さんも異存はないようだ。大きな淵は四人の釣り座を十分確保してくれている。
 小野さんと僕は早速、釣りの支度を始めた。僕は練り餌と一緒に父親からもらったサクラエビの粉を出す。見れば皆瀬さんと東海林君も練り餌を使っている。
「ちょっと、秘密兵器があるんだ」
 僕は自慢げにサクラエビの粉を持ち上げた。逆光の手からぶらさがる透明のビニール袋。青空に淡い紅色が浮き立っていた。
「何、それ?」
 小野さんが興味深そうにビニール袋を覗き込む。  
「サクラエビの粉だよ。練り餌に混ぜるのさ」
「ほう、それはおもしろいな」
 その僕の声に皆瀬さんが反応した。皆瀬さんも東海林君も釣竿をかついで、僕たちの方へ寄ってきた。
「俺も勉強しなきゃな」
 東海林君が笑いながらつぶやいた。
「俺は皆瀬さんと相談して決めたんだ。将来はうちの県の職員になって水産試験場に勤めるんだってね」
「すごい。もう将来設計、建ててる」
 小野さんが東海林君の言葉に驚いたように言った。考えてみれば、僕も将来設計など建ててはいない。もっと小さいころは宇宙飛行士になりたいと考えていたが、かなり大ざっぱな夢だ。果たして実現などできるだろうか。
「ふふふ、それがだめなら、釣り具店の店長さ」
「そう、その時は私に釣り具を安く売ってくれることになっているんだ」
 皆瀬さんが笑いながら言った。
「あー、僕にも」
「私にも」
 僕と小野さんが後に続いた。
「どっちかというと、釣り具店の方が私たちにはいいわよね?」
 小野さんがおどけながら同意を求める。
「どちらにしろ、魚と関わる仕事がしたいな」
 そう言う東海林君の瞳には力がこもっていた。
「僕は、まだわからないや。先は長いもんね」
 僕は負け惜しみではなく、気楽に、肩の力を抜いてそう言った。それを否定する者は誰もいない。
 小野さんも僕も釣り支度を始める。細い糸が竿に結ばれ、伸びていく。それが川上から吹きおろす風になびいた。
 手元にはサクラエビの粉をまぶした練り餌が、茶色の中に綺麗な紅色を添え、まるで和菓子のようだ。
「さあ、みんなで釣ろう!」
 僕たち四人は並んで竿を振った。竿が風を切り、糸が舞う。そして、着水したウキがゆっくりと流れ出した。まるで僕たちの村の時間を象徴するかのようにゆっくりと。