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僕の村は釣り日和11~フィナーレ

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 どのくらい笹熊川を上流に遡っただろうか。淵で釣り糸を垂れる二人組みを見かけた。
「あっ、あれ!」
 小野さんが叫ぶ。見間違うはずもない。その二人組みは皆瀬さんと東海林君だった。
 僕は一瞬、二人のところへ行こうかどうしようか迷った。何せ、今日は小野さんと二人きりだ。あまり邪魔をされたくないのが本音だった。
 しかし、皆瀬さんと東海林君とは深い絆で結ばれている。このまま無視するのも気が引けた。それは小野さんも同じ思いだろう。
「行ってみようか?」
「うん」
 小野さんはやはり快くうなずいてくれた。
 僕には東海林君が餌釣り用の渓流竿を振っていることが、珍しく新鮮な光景に思えた。やはり彼にはルアーのイメージが付きまとう。
 小野さんと僕は彼岸花と女郎花が咲く土手を降りていった。
「やあ、何を釣っているんだい?」
 皆瀬さんも東海林君も振り向いた。
「やあ、未来の夫婦のお出ましだぞ」
 手をつないだ僕たちを見て、皆瀬さんがからかうように言った。
「ふふふ、もうすぐ親子になる人達が仲良く釣りをしているわ」
 小野さんも負けずに応戦する。皆瀬さんも東海林君も苦笑した。
 東海林君のウキが沈んだ。彼はヒョイと釣竿を上げ、魚を抜き上げる。
 小さな、金色にくすんだ魚が東海林さんの手のひらに収まった。それはピチピチと跳ねながら、元気一杯に暴れている。
「アブラハヤだね」
「そうさ」
 東海林君が答えた。
「今日はアブラハヤがターゲットなんだ」
 アブラハヤと言えば、普通は外道(目的以外の魚)だ。それを専門に狙っているという。
「アブラハヤはね、漁協が放流しているわけでもないのに、たくさんいる。簡単にいくらでも釣れるんだ。あれだけの台風の後なのにね」
 そう言いながら東海林君がアブラハヤを川に返した。
「まあ、それだけこの笹熊川が豊かな証拠だよ。ちゃんと生命の再生産ができているんだからね」
 皆瀬さんがそう言いながら、魚を抜き上げた。どうやら、この淵には相当な数のアブラハヤがたまっているようだ。
「いつか高田君が、アブラハヤを使ってうどんのダシをとるって言っていたよ」
 それは古くから地元に密着した、生活の知恵だと僕は思う。雑魚でもその恩恵にあやかれることは、喜ばしいことではないか。
「どうする? 僕たちもここで釣らせてもらおうか?」
 僕は小野さんの顔を覗き込むように尋ねた。