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僕の村は釣り日和11~フィナーレ

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 僕は父親の背中に、元気な声を返した。

 翌朝、待ち合わせ場所の落合橋へと向かう。既に小野さんらしき人影が遠くに見えた。
 十月に入ると禁漁となるため、釣りの対象はウグイやオイカワなどの、いわゆる雑魚となる。それはそれで楽しいものだ。小野さんと一緒ならば、たとえどんな釣りだって楽しいと思えるだろう。
「おーい!」
 僕は人影に大きく手を振った。人影の手も大きく揺れる。僕は駆け出した。
「待った?」
「ううん。私もついさっき来たところ」
 息を切らして尋ねる僕に、小野さんがにこやかに笑って答えた。
「実はね、私、昨日はあまり寝られなくって」
「僕もさ」
「うふっ」
「あはははは」
 二人で照れるように笑った。
「どの辺りで釣ろうか?」
 小野さんが川面を覗き込みながら尋ねる。
「そうだなあ。この前は橋の下で釣ったから、もう少し上流へ行ってみようか? でないと、また高田君に見られちゃうよ」
「あ、言えてる、言えてる」
 二人でまた笑った。そして、僕たちは上流へ向かって川沿いのあぜ道を歩き始めた。真っ赤な彼岸花が土手を彩っている。
「あの花って、綺麗なのか、毒々しいのかわからないわね」
「自然ってそんなものじゃないかな。たとえば水芭蕉やリンドウ、スズランなんかは眺めるだけならいいけど、毒を持っているからね」
「へえ、そうなんだ。知らなかったわ」
「この笹熊川だって田畑に潤いをもたらしてくれるけど、台風の季節にはよく大水を出すものね。自然をあなどっちゃいけないよ」
 僕は偉そうにも説教ぶってしまった。しかし、小野さんはそんな僕の話に耳を傾けていた。
「ふふっ、やっぱり桑原って」
 そこまで言いかけて、小野さんが口をつぐんだ。
「何?」
「ううん、何でもない」
 小野さんがいたずらっぽく笑う。そんな笑いをされると、気になるものだ。
「何だよ?」
「いや、桑原って、思ったとおりだなって。あはは」
 そう笑った小野さんは照れを隠すように、僕の前を歩き始めた。僕は鼻の下をこする。少し、いい気分だ。
「ねえ、手をつなごうよ」
「いいよ」
 小野さんは僕の申し入れを、快く受け入れてくれた。僕は竿を持つ手を持ち替えて、小野さんと手をつないだ。温かかった。いつか、釣竿越しに感じた温かさよりも、直につないだ方が温もりが伝わる。
 お互いの手は少し汗ばんでいたような気がする。