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僕の村は釣り日和11~フィナーレ

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「しかし、この水勢は危ない。早く帰ってお父さんに連絡したまえ」
「はい」
 そう返事をして、ふと、目を貢橋から川上に逸らした時だった。
「皆瀬さん、あそこのブッツケ、今にもエグレそうですよ!」
 僕のその声に驚いた皆瀬さんが振り向く。
 そこのカーブは激流が勢いよく堤防に打ち付けられ、今にも決壊しそうだった。
「本当だ。こりゃヤバイな。あそこが決壊したら畑はメチャクチャだ」
 皆瀬さんがトランシーバーを口に当てた。
「こちら皆瀬、こちら皆瀬。ただ今、水無川を警戒中。貢橋の上流100メートル付近の堤防が決壊寸前。至急対策を求めたし!」
「こちら災害対策本部。了解した。土嚢を持って対策に向かう」
 くぐもった声がそう答えた。
「ありがとう。君が気が付かなければ見落とすところだったよ」
 皆瀬さんがニッコリと笑った。高田さんも胸をなでおろしている。
「じゃあ、本当に後は大人たちに任せてもらうよ」
「よろしくお願いします」
 高田君と僕は、皆瀬さんに頭を下げてその場を立ち去った。

「ちょっと、健也!」
 家に帰るなり、母は烈火のごとく怒り狂った。
「この台風の中、川へ行ったですって? いい加減にしてちょうだい!」
「でも、僕が水無川の堤防の決壊を食い止めたんだ……」
「そうかもしれないけど、万が一ってことがあるでしょう? お母さん、心臓のあたりがキューッとなったわ」
 母親として怒るのは無理もない。
「お願いだから、心配掛けないでちょうだい……」
 そう言って、母は僕を強く抱きしめた。
「そうだ、お父さんに連絡しないと、貢橋が沈んじゃいそうだよ」
「そ、そう…。わかったわ。お母さんが連絡しておくから……」
 母の頬は滴で濡れていた。
 僕は少し思慮が足りなかったことを反省した。
「お母さん、ごめんなさい……」
「もう、危ないことはしないでね」
「釣りはいいだろ?」
「そのくらいはね」
 母が受話器に手を伸ばす。
「もしもし、桑原の家内ですけど……、いつも主人がお世話になっています……。あ、あなた? 水無川の貢橋が増水で沈みそうなのよ。え、そう……。うん……、わかった。それじゃあ」
 母は静かに電話を切った。
「お父さん、何だって?」
「今夜は会社に泊まるって……」
 母はようやく安心したような顔をした。そして、口からは「はあ」という深いため息が漏れる。