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僕の村は釣り日和10~決戦!

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 モヒカン猿がうなった。彼は知っているのだ。皆瀬さんが東海林さんの母親に好意を寄せていることを。
 モヒカン猿、いや、東海林君の父親と皆瀬さんの睨み合いは続いた。それは、ひとりの女性をかけた、男同士の気迫に満ちたにらみ合いだった。
 僕はこの時、ふと思った。今、僕は小野さんのことが好きだ。小野さんも僕に好意を寄せてくれている。もしも、これから先、僕の前に立ち塞がるライバルが現れたとしたら、僕もあのような目をするのだろうか。
 朝の冷気の中でも、皆瀬さんの額からは汗が流れている。それは歩いて、体が温まった汗ではなかった。冷や汗だ。
 モヒカン猿は微動だにせず、皆瀬さんをにらみ続けている。皆瀬さんはにらみながらも、どこかお願いするような目をしている。
「お父さん、皆瀬さんを認めてあげてよ!」
 緊張に耐えられなかったのだろう。東海林君が思わず叫んだ。
 心なしかフッとモヒカン猿の目が緩んだように思えた。モヒカン猿は東海林君を見つめた。それは、優しさと寂しさをたたえた男の、父親の目だった。その目は、どことなく潤んでいるようにも見える。
 モヒカン猿はその潤んだ目を皆瀬さんに向けた。皆瀬さんの目からも緊張が解けている。皆瀬さんもまた、泣きそうな顔をしていた。
 モヒカン猿はノッソリと後ろを向くと、そのまま茂みへと帰っていった。薮がガサガサと揺れ、茶色い背中が遠ざかっていく。
「お父さん!」
 東海林君のその声に、モヒカン猿が足を止めた。
「お父さん、また会えるよね?」
 しかし、モヒカン猿は振り返ることなく、そのまま深い茂みの中へと消えていったのである。
「お父さん……」
 ただ呆然と東海林君は茂みを見つめ続けた。皆瀬さんも、小野さんも、そして僕も茂みを見つめ続けた。
(やっぱり、あの猿は東海林君のお父さんに違いない!)
 僕は心の中で、そう確信していた。
 僕は見た。この時、東海林君と皆瀬さんの頬から滴がしたたるのを。おそらく、東海林君と皆瀬さんはモヒカン猿と、小野さんや僕にはわからない方法で会話していたに違いない。
「さあ、行こう」
 皆瀬さんが鼻をすすりながら、ほほえんだ。その笑顔からして、どうやら話はうまくまとまったようだ。
 東海林君が顔を上げた。彼も鼻をすする。だが、次の瞬間には笑顔を浮かべて言ったのだ。