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僕の村は釣り日和10~決戦!

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 ちなみにポンピングとは、竿を立てて魚を寄せ、竿を立てた分だけリールを巻き取る動作を繰り返すことをいう。
 東海林君が大きく竿をあおった。そして竿を寝かせながら、忙しくリールを巻き取る。そして、次の瞬間には、もう竿を立てている。
 確実に釜の主との距離は縮まりつつあった。

 ユラー。
 女忍者の悲しい恨みを抱いた大きなイワナは、全力の力を出し尽くし、その身を横たえていた。
 口にはガップリと『オレタチノ・ザラ?』をくわえている。頭はサケほど大きくはないが、それでも口は小鳥を悠に飲み込むほどはあるだろう。鼻先は曲がり、イカツイ顔をしている。とても女忍者とうたわれるような、女性的な顔つきではなかった。野生の獰猛さを剥き出しにした顔が、僕たちを恨めしそうな目つきでにらんでいた。
 ふと、釜の主の背後に目をやる。
「イワナだ。もう一匹、大イワナが後ろについてくるぞ」
 まるで釜の主を気遣うように、一回りほど小さい、60センチほどのイワナが後ろから泳いできていた。
「もしかして、恋人かしら? それとも夫婦?」
 小野さんが神妙な顔つきでつぶやいた。
 居合わせた者一同が、その姿に心を痛めたのは言うまでもない。だが、ここまできて、引き返すわけにはいかなかった。
「くっ!」
 東海林君が一気に竿を持ち上げた。そしてリールを巻く。釜の主が僕たちに近づいた。すると後ろからついてきたイワナは反転して、緑色の深みへと消えていった。
 ふだんは気にも留めていなかったが、イワナの歯が想像以上に鋭いことに気づいた。これではブラックバスのように、アゴをつかんで持ち上げることは不可能だろう。やはり網が必要だったのである。
 今や釜の主には、ほとんど抵抗する力は残っていない。多少、尾ビレをばたつかせるくらいだ。戦意を喪失した女忍者は、エラを苦しそうに動かしている。
「よし、ランディング(取り込み)だ」
 東海林君が竿を高く持ち上げた。すると、釜の主の頭が宙に浮いた。大きな口がガバッと開く。
 小野さんと僕とで、その頭から網ですくった。毛糸の網は、今まで全力で戦った女忍者をいたわるように、その身を包んだ。
「やったーっ!」
 又吉じいさんを除く、全員がほぼ同時に叫んだ。
 クワーッ!
 奇っ怪な動物の声が滝上の方から響いた。みんなで滝上を見上げる。