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僕の村は釣り日和10~決戦!

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 東海林君は額に汗をにじませながら、そう言った。
 だが、果たして魚は疲れるのだろうか。僕には竿を通して伝わる躍動感が、悠々と泳いでいるようにも感じられる。
「?」
 にわかに竿が軽くなった。
(まさか、バレたのかな?)
 僕の胸に一瞬、絶望感がよぎった。
「ボヤッとするな。しっかり支えていろ!」
 東海林君の怒声が飛んだ。見れば東海林君は、ものすごい勢いででリールを巻き取っている。
「やっぱり釜の主はただ者じゃないぜ。今度は一気に浮いてきやがった」
 僕は水中へと伸びる糸を見た。それは水を切りながら、ものすごい早さでリールへと巻き取られている。
 青とも緑とも言えない水面に黒い影が映った。それは水を持ち上げるようにして、その姿を現す。
 朝日に輝く飴色の体と白い斑点がジャンプした。
(ま、まさかイワナのジャンプなんて!)
 僕はその大きさよりも、イワナがジャンプしたことに驚きを隠せなかった。僕は渓流釣りの経験がそうあるわけではないが、イワナは普通、下に突っ込みながら、身をくねらせるような引きを見せる。ジャンプするイワナなど、今で見たことがないし、話にも聞いたことがない。
 大きな波紋とともに、大イワナは再び水面下へと潜っていった。
 ジジジジジーッ。
 リールが悲鳴を上げた。

「そ、そんなバカな。あんなガキのオモチャに釜の主が食らいつくなんて」
 又吉じいさんのうろたえたような声が聞こえた。
「だから言ったでしょう。子供をあなどっちゃいけないって」
 皆瀬さんが得意そうにつぶやいた。
 どうやら『オレタチノ・ザラ?』に食らいついたのは、紛れも無く釜の主のようだ。
「ああ、あんなに大きいの?」
 見れば小野さんは腰が完全に引けている。
 釜の主は三尺とまでいかなくても、80センチはありそうだ。普通の大人でも腰が引けるサイズだろう。
「大丈夫。ヘトヘトにさせるから、その網ですくってくれ!」
 東海林君が叫んだ。
「う、うん」
 小野さんが網の柄を握り直す。
「ふふふ、主のやつ、だいぶ疲れてきているみたいだ。よーし、ポンピングで寄せよう。桑原は小野さんのサポートに回ってくれ」
「わかった」
 僕は東海林君から離れ、小野さんと一緒に網の柄を握る。その柄は小野さんの手のひらからにじんだ汗で、ベタベタしていた。