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僕の村は釣り日和10~決戦!

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 『オレタチノ・ザラ?』は水面でもがく、ヒナ鳥のようにあえぎ続けている。実に見事な演出だ。これだけのルアー操作ができる東海林君は、相当のルアーの達人と言わなければならない。
 自分では気づかないが、釣り人は自然と前のめりの姿勢となる。この時の東海林さんも例外ではなく、前のめりでリールを握っていた。
 不見滝に朝日が差し込んだ。東の山を越えて昇ってきた、遅い朝日である。太陽の光が東海林君のリール、カルカッタ200の銀色のボディに反射し、一瞬だが目がくらみそうになる。
 僕は目を滝壺の『オレタチノ・ザラ?』へと移した。
 そして、それはゆっくりときた。大柄なくせに、まるで忍者のように『オレタチノ・ザラ?』の背後に忍びよってきたのだ。そう、黒い物体が。
 にわかに水面が盛り上がったかのように見えた。すると、突如として水しぶきが舞い、『オレタチノ・ザラ?』が視界から消えた。
「ヒットーッ!」
 東海林君の叫ぶ声が、滝の音をかき消して響いた。

 竿はムチのようにしなり、リールからはジリジリと糸が引きずり出されていた。
 東海林君の竿はブラックバス用の竿でも、相当硬くて丈夫なはずだ。それが根元から曲がっている。
 東海林君も必死に両手で竿を支えるが、リールを巻き取る余裕がないらしい。
「よし!」
 僕は東海林君の元へ駆け寄り、竿を一緒に支えた。僕の手にも、もだえるような魚の振動が伝わる。魚は滝壺の底へ向かって、身をくねらせながら泳いでいるのだ。
 それにしても、すさまじい力だった。少しでも力を抜けば、竿と糸は一直線となってしまうだろう。そうなると、竿の弾力が活かされず、糸が切れてしまうのだ。
 皆瀬さんは黙って僕たちを見守っていた。それは、子供の成長を見守る優しい大人の瞳だったのかもしれない。
 小野さんは網を手に水面をただ見つめている。よく見れば、足が震えているではないか。これでは魚を見た瞬間に、腰でも抜かしかねない。
 ジリジリ。
 リールからは糸が出て行く一方だ。東海林君と僕は踏ん張ってこらえる。魚は必死だ。何せ、自分の命がかかっていると思っているのだろう。
「このままじゃ、どうしようもないよ」
 僕が焦って叫んだ。
「こういう時は、頭に血が上ったやつが負けなのさ。なーに、相手もそのうち疲れる。糸はたっぷり巻いてあるんだ。心配はいらないぜ」