僕の村は釣り日和9~秘密兵器
小野さんも心配そうに尋ねる。
「ああ、俺もいろいろ聞かれたけどね。何とか今日も、仕事に行ったよ。家にいるより、外に出た方がいいんじゃないかな」
東海林君がクマを作った目でニッコリ笑った。
「君もあまり無理するなよ」
「ありがとう。後で今日の授業の内容を教えてもらえれば大丈夫だよ」
どうやら、東海林君は昼寝をするつもりらしい。既に目はうつろだ。
「じゃあ、今日の放課後は復習と作戦会議ね」
小野さんが笑った。机に伏せた東海林君からは、もう寝息が聞こえていた。
小野さんと僕は顔を見合わせて、クスッと笑った。
それからしばらくしてだった。高田君がバケツに入った魚を持ち込んだのは。
「ブラックバスじゃないか!」
五年生の男の子の声で、教室中が騒然となった。そう、高田君が持ち込んだ魚とは、ブラックバスだったのである。その声にさすがの東海林君も、ムクッと体を起こした。みんながバケツの回りに群がる。
高田君はバケツを覗き込んでは、東海林君や僕の方を見ながら言った。
「昨日、ため池でミミズを餌に釣りをしていたら、こいつが釣れてよ。なんだか、こいつを見ていたらお前らのことを思い出しちまってな。殺すのもかわいそうでよ。飼ってみようと思って持ってきたんだ」
その口調はどことなく、自慢げに、そして優しげだった。
「それは無理だな」
東海林君がつぶやいた。
「えっ?」
一同が東海林さんを見る。
「ブラックバスは『特定外来生物』に指定されていて、法律により個人で飼うことは禁止されているはずだ。水族館なんかは別だけどね」
東海林君が淡々と言った。みんなはポカーンと口を開けたまま、何も言えないでいる。
「じゃあ、このブラックバス、どうすればいいんだ? ため池へ戻せば、また大人たちに殺されるぞ!」
高田君が焦れたように叫んだ。
「でも、水を抜いて殺されたはずのブラックバスがどうして、まだいたのかな?」
僕にはその疑問の方が大きかった。
「いつかお前のお父さんが言っていただろう。自然の生物は人間よりも強いって。きっと卵が底にあったんだろうな」
「そうか……」
作品名:僕の村は釣り日和9~秘密兵器 作家名:栗原 峰幸