小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕の村は釣り日和9~秘密兵器

INDEX|8ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

「その後、女忍者はイワナになったと言われているんだ。あの沢のイワナにね。イワナのくねるような強い引きは、女忍者が苦しみもだえているのだという人もいてね。いつしかあの沢のイワナを釣ることを、みんな恐れるようになったんだ。ひょっとすると、釜の主も女忍者の生まれ変わりかもしれないね。そうだとすると、強敵になるかもしれないな」
「お父さんが猿に取り憑くくらいだから、ひょっとすると……」
 東海林さんがそうつぶいた時だった。
「そんな、あの人が猿に生まれ変わるだなんて、そんな……」
 真っ青な顔をした東海林君の母親が、崩れるように前のめりに倒れた。それをおじいさんが支える。
「正、それは本当なのか?」
 おじいさんの目はいつになく厳しく、真剣だった。
「冗談でこんなことが言えるかい。あの猿はお父さんだった。ちゃんと俺に話しかけてきたんだぜ。それにあの山奥で、お父さんはまだ生きているんだ。生きているんだよ!」
 東海林君の瞳には力がこもっていた。誰もその気迫に言い返すことなどできないでいる。小野さんは、何が起こったのかわからないようで、ほうけた顔をしている。
「ああっ、そんなことって、そんなことって……」
 東海林君の母親が取り乱しながら、頭をかいた。それをおじいさんが支える。
「しっかり、しっかりせい。あいつは死んだ。死んだんじゃ!」
 ただ、皆瀬さんは東海林君の話を否定せず、頷いていた。
「いつか、落ち着きますよ。今日はゆっくり休むといい。明日も仕事ですからね」
 皆瀬さんは東海林君の母親の肩に、そっと手を添えた。その手が温かそうだった。
「僕らは帰ろうか?」
 小野さんも気まずい空気を察したのだろう。僕のその言葉に小野さんが頷いた。これ以上は、子供の出る幕ではないような気がしたのだ。とりあえず、作戦会議はお預けだ。
 帰りの道で、小野さんにあのモヒカン猿のことについて話をした。すると小野さんも「ふーん、不思議なことがあるものね」などと言って、否定はしなかった。ただ、二人とも東海林君の母親のことが心配であったのは言うまでもない。自然と小野さんも僕も無口になった。出るのはため息ばかりである。
 既に陽はとっぷりと暮れていた。

 翌朝、東海林君は疲れた顔で登校してきた。そこへ小野さんと僕が駆け寄った。
「昨日はあれから、お母さん大丈夫だった?」