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僕の村は釣り日和9~秘密兵器

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 恐るべきは自然の生命力だった。確かに人間によって持ち込まれた生命かもしれないが、自然に放たれた瞬間から、人間の意志の介入を嫌い、現在までつながれてきた生命の営みが、今、目の前のバケツの中にあった。確かに自然を意のままにしようと思うのは、人間のおごりなのかもしれない。
 ガラガラ。
 教室の扉が開いた。斎藤先生が近寄って、バケツの中を覗き込む。みんなは「ブラックバスだ」と囃し立て、ヤンヤヤンヤの大騒ぎとなっている。
「先生、俺が釣ってきたんだ。飼っちゃだめですか?」
 高田さんが上目づかいで先生を見る。
「うーん。これはブラックバスに似ているが違うぞ。貴重な『カワスズキ』だ。とても貴重な魚だから、一週間だけ学校で飼って、その後は元のところに逃がしてあげましょう」
 さすがは斎藤先生だ。懐が広い。もちろん『カワスズキ』などいう魚は存在しない。それでもブラックバスを『カワスズキ』と呼び、一週間だけ飼うことを許可してくれた先生の度量には感服した。
 メダカが消えた水槽には、こうしてブラックバスとウグイが同居することになったのである。ブラックバスよりウグイの方がやや大きい。これならば、ウグイがブラックバスに食べられる心配はあるまい。
「大丈夫だよ。僕たちが黙っていれば、大人たちは気づかないさ」
 僕はそっと高田君に耳打ちした。高田君がニコッと笑った。

 放課後、高田君は野球もやらずに、急ぎ足で下校した。養鶏場で獲れるドバミミズをブラックバスの餌にするのだとか。
 小野さんは毛糸で網を編むために、やはり早々と家に帰った。昨日、皆瀬さんが海釣り用の網を買ってきてくれたので、それに合う大きさに編んでもらうのだ。
 東海林君と僕は、フロッグの脚を付けたザラ?のテストをため池で行う。果たして、ヒナ鳥に見えるだろうか。少し心配だ。
 家に帰って、ランドセルを放ると、僕は急いでため池へ向かった。
 少し遅れて、東海林さんが来た。
「ふふふ、俺たちの秘密兵器を早速、試そうぜ」
「ああ」
 見つめ合った僕たちの瞳には、まだ見ぬ釜の主こと、大イワナが既に浮かんでいる。
 東海林君がていねいだが、素早くルアーを結ぶ。
「いくぞ!」