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僕の村は釣り日和9~秘密兵器

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「正君たちと猿に会ったんですよ。正君はどうやら、その猿にお父さんが取り憑いていると思っているようです。でも、事実そうかもしれない。あの猿の動きは不自然だし、正君と心の中で何かしゃべっているようだった。ひょっとすると、本当かもしれませんよ。何せ、鬼女沢ですからね」
 皆瀬さんは向き直ると、伏し目がちにそう言って、また、ため息をついた。
 東海林君の母親はただただ、驚きを隠せず、口に手を当てたまま固まっている。おじいさんもおばあさんも深刻そうな顔をしていた。一体、鬼女沢に何があると言うのだろうか。
「しかし、何で若いあんたが鬼女沢の伝説を知っておるんだ?」
 東海林君のおじいさんが不思議そうに、皆瀬さんに尋ねた。その伝説はどうやら、今ではすたれてしまったらしい。
「私は前に村史編纂(へんさん)課という部署にいましたから」
「なるほどのう」
 おじいさんが納得したようにうなずいた。
「あのー、鬼女沢の伝説って、何なんですか?」
 僕が恐る恐る尋ねた。すると、皆瀬さんは正座をしたまま、腕組みをして語り始めた。
「ずっと昔の話だけどね。まだ日本がまだいくつもの領地に分かれていた頃、ちょうど、鬼女沢の源流にあたる、鬼女山が国の境だったんだよ。この玉置村は貧しい村でね。年貢が収められなくて、他の国へ逃げ出そうとする者も少なくなかったらしい。だが当時、他の国へ逃げることは許されなかったんだ。関所破りと言ってね、死刑になったんだよ」
「へえー、厳しかったんだね」
 今では日本全国、どこへ行こうが罰せられることはない。東海林君も小野さんも、皆瀬さんの話に、夢中で耳を傾けている。
「玉置村から、隣の国へ逃げる者は平地を避けて、たいてい鬼女山を抜ける。そこで領主は山にくの一、つまり女忍者を置いて、見張り役にしたんだ。そして、他の国へ逃げようとする者を発見した時は、容赦なく殺すよう命じたという。だが、女忍者も人の子だった。そんな任務に耐えられなかったのだろう。あの不見滝の釜に身を投げて、自殺したと言われている。これが鬼女山と鬼女沢の名前の由来さ」
 みんなが息を飲んだ。おじいさんとおあばあさんは頷いている。東海林君のお母さんはうつむいて、固く拳を握り締めていた。皆瀬さんの話はまだ続く。