僕の村は釣り日和9~秘密兵器
小野さんはなおもカエルをもてあそびながら、ほうけた顔をしている。
「そのカエルの脚、水鳥のヒナの脚に似ていないか?」
「あっ、そうか。これをあの、ひしゃげたタマゴみたいなルアーにくっつければ……」
「そう、本当の秘密兵器になるってわけさ」
小野さんと僕は頷きあった。
「なるほど、これが本当の秘密兵器か」
翌日、学校でフロッグの脚を取り付けたザラ?を見た東海林君がうなった。
「今日の夕方、皆瀬さんがうちに来るんだ。よかったら二人とも来ないか?」
東海林君が小野さんと僕を誘ってくれた。皆瀬さんにとって、僕たちはお邪魔虫だろうが、大事な作戦会議だ。行かないわけにはいかない。
放課後、僕たちは連れだって東海林君の家へと向かった。
東海林君の家ではおじいさんとおばあさんが迎えてくれた。小野さんも僕も深々と頭を下げた。
「おお、よく来たのう。まあまあ、遠慮せずに上がりなさい」
にこやかに迎えてくれるおじいさんとおばあさん。日本の原風景が残っているような、どこか心が和む光景だった。
「お母さん、村役場の非常勤の仕事を正式に始めたんだ」
東海林君が嬉しそうに言った。そして、お父さんの遺影の前の水を取り替えると、手を合わせた。小野さんと僕も自然に手を合わせる。
「ふう」
東海林君がため息をついた。それと同時に黙祷が終わる。
「ふふふ、俺はクリスチャンじゃないけど、この時間だけはクリスチャンになった気分になるんだよな」
東海林君がつぶやくように言った。仏壇の横に置かれた十字架と聖書は、確かに不釣り合いのようにも見える。だが、決してその存在を誰も否定したりはしない。日本古来の伝統や宗教と、海外から入ってきた伝統や宗教がうまく調和して、そこに存在していた。
考えてみれば、我々日本人は少なからず誰だってそんなところがあるものだ。七五三でお宮参りをし、毎年クリスマスプレゼントを楽しみにする。そして、多くの人のお墓はお寺にあるいう。日本にはいろいろな神様や仏様が入り混じっていると言う人もいる。
でも、東海林君はいつか「神様を信じない」と言っていた。お祈りする時もそうなのだろうか。しかし、それは聞いてはいけないような気がした。
作品名:僕の村は釣り日和9~秘密兵器 作家名:栗原 峰幸